「3カ月を過ぎると、病院に支払われる入院医療報酬が極端に減ることになり、病院から退院を迫られます。そうした場合、医療機関には医療ソーシャルワーカーがいるので、まずは相談してみることをお勧めします。その病院にいなかった場合は、親が住んでいる地域の『地域包括支援センター』に聞いてみるのがいいでしょう」
そう語るのは、日本ケアサポートセンター・高室成幸理事長。救急車で病院に搬送されても、入院できる期間は90日……。介護が必要になった親を抱えて、どこに行ったらいいの?「自分で探して転院を」と言われても、戸惑う人がほとんどだろう。いったいどうすればいいのか。そこで、実例にそって高室さんが解説してくれた。
【実例1】自宅で介護
要介護5のAさん(85・女性)は、脳内出血で倒れ近くの病院で手術・入院。その後リハビリ専門の病院へ移り、現在は自宅で介護を。Aさんの娘さん(50代)は語る。
「リハビリ専門病院を退院後、母親本人の希望で、自宅で介護しています。胃ろう手術も受けました。また痰などが詰まらないための吸引は、緊急時に必要なため、教えていただいて、自分でもできるようになりました。ですが、母親はヘルパーさんや看護師さんに24時間態勢で入っていただくことが必要です。安心感はありますが、毎月の介護費用がとても負担になります」
高室さんは説明する。
「Aさんは24時間の介護が必要な状態ですから、費用の面で在宅介護を続けるのが難しいようでしたら、医療保険を使って医療サービスが充実している『介護療養病床』に入るという選択が望ましいと思います」
【実例2】特別養護老人ホーム(特養)
要介護4のBさん(85・男性)は、脳内出血で倒れたものの、回復。特養老人ホームに入居した。Bさんの息子さん(60代)は、こう嘆く。
「施設全体に異臭がするんです。職員も言葉がきつく、父の様子を聞いても説明をしてくれません。父に対して働きかけがなく、寝させてばかりなのです。退去すべきかと考えているんですが……」
高室さんは語る。
「特養も玉石混合ですが、何百人もの入居待ちはざらなのは、比較的費用の負担が少なく入れることと、社会福祉法人が運営しているので安心感があるからです。特養は食事、入浴、排せつなどの介護サービスは手厚いですが、医療面では必要最低限で、医師が常駐していることもなく、夜間は介護職員だけになります。胃ろうなどの医療処置が必要な人の入居に7割の施設が制限を設けています。容体が急変したときは、日中・夜間問わず、提携病院に搬送されることになります」
【実例3】介護老人保健施設(老健)
要介護1のCさん(88・女性)は1年前に骨折して入院し、そのまま家に戻ることはなく、老健に入ることになった。Cさんの息子さん(50代)が語る。
「骨折は回復しましたが、家には日中誰もいないし、ガスコンロをつけっぱなしで離れたことがあり、危うく火事になりかけたことがありました。そのため、リハビリもしてくれる老健に入れることにしたのです」
老健はリハビリの専門職が常駐し、自立した生活を目指して医療ケアを行う施設だ。
「老健であれば、リハビリのプロの理学療法士が、家庭生活に戻ったときに快適な暮らしができるよう、自宅の間取りや環境を下見に来てくれて、それにあわせたリハビリを行ってくれる施設がお勧めです」(高室さん)
【実例4】介護付き有料老人ホーム
要介護3から4になったDさん(85・女性)は、高額な入所金を納めて介護付き有料老人ホームに入所した。両親がずっとためていたお金から出しましたと娘さん(60代)は語る。
「私たち子どもはそれぞれの家庭があるため、両親が自らの意思でホームに入りました。ただ、その施設は両親に自由に面会することはできないため、よい施設とは思えません。施設が信じられなくなりました」
介護付き有料老人ホームは高額で手厚いサービスといわれているが、実際のところはどうなのだろうか。
「サービスの内容も料金もさまざまなのが実情です。家族内だけで決めず、担当のケアマネージャーに相談してほしいと思います。費用が高い安いとか、高級感があるかどうかだけが重要ではありません。特に新しい施設は注意が必要です。まだ職員が施設に慣れていないこともあり、落ち着くまでは1〜2年かかるので、それからの入所をお勧めします」(高室さん)