「おしるこやあんみつだけじゃ、やっていけなくなって、それで始めたんだよね。最初は焼きそば。それでお客さんに“支那そばはないの?”って言われて。もう40年は経つかな?」。甘味処で何故ラーメン?との質問に、「山口家本店」の2代目主人・江口勝弘さんはこう答えた。
愛知出身の江口さんにとって義理の母にあたる、先代のおばあちゃんが昭和21年に甘味処としてお店を始めて15年。昭和40代の浅草――今から見ればじゅうぶんにノスタルジックな時代と場所――ですでに甘味処への客足が遠のいていた時代状況に、まず驚く。
山口家の店名は、墨田区にある旧知のそば屋「山口家」に由来。江口さんの父も両国でそば屋を営んでいた。日本そばに浅からぬ縁がありながら、焼きそば、そしてラーメンを選んだ江口さん。「あの頃は“支那そば時代”だったから。今はタンメンの方が出るけど、最初はラーメンだけでしたね。麺は、浅草の老舗“来集軒”の製麺所で打ってもらって」
やや細めで、ほどよく縮れた、しっかりとした食感の麺。そして、ここのタンメンはとにかくスープが元気いい。一気に炒めた野菜をジュワジュジュワに熱したスープが、温泉マークみたく湯立ってる! そしてしっかりコクが残るのに、全然しつこくない。
この特製スープを作り上げたのが、江口さんが“ママさん”と呼ぶ、奥さんの友子さん。どこかで修行するでなく、自己流で作った味だというから恐れ入る。