「親父がいた頃は楽でした。自分のやることだけやってればよかった。でも親父が引いてからは、このままじゃダメだなあ…って」。

 消えては現れる競合店、高級志向の家庭用ラーメン、どんどん贅沢になっていく消費者の味覚。「おじさん、今日のうすいね」「ああそうかい」…父の時代には許されたブレも、この先きっと通らなくなる。老舗ののれんを守るための、二代目の味の追求が始まった。

 「どの粉が一番おいしいだろう? でも粉だけ、そばだけおいしくてもダメ。どんぶりの中のお見合いみたいなもんでね、スープや具とケンカしないように。スープはスープで、これ入れたらおいしいって考えては、麺とのバランスを考えて…」頭で考えてもダメ。"計算で味は作れない"が幸一さんの持論。目と手と五感で作っていくものだという。そして代替わりから20余年経った今も、味の研究は毎日続いている。「追求に終わりはないし、味に完成はないですよ」。

 そしてもうひとつ、20余年努力してきたのが、食材の確保。これも幸一さんの代で開拓を始めた。「季節によって味が変わったり、手に入らなくなる食材は、いい時期のものをストックしておきます。お金は馬鹿にならないけれど、味を年中保つためには仕方がない。取引先の方々も20年30年の長いつき合いですから、良い物が入るとすぐに連絡をくれて、取っておいてくれる」

 これまた頭で考えてもダメ。時間をかけて信頼関係を築いた、多くの人達の協力がなければできない話だ。「調理場での努力はもちろんですが、もしかしたら、それを裏や外から支えてくれてる力の方が大きいかもしれません。感謝を忘れてはいけないと思ってます」

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