浅草橋「大勝軒」岩上さんの作るスープは、コクはあるけどギトギトしてはいない。すっきり、やさしい飲み口は残したまま、肉の旨味はしっかり味あわせる。昔ながらの味は変えずに、ひと味加えて、強くするとはこういうことなのだろう。
「ダシに使う材料の量をまず増やした。鶏ガラは毎日5キロ、豚ガラは毎日10キロを使い切る。タマネギや人参といった野菜も増やしました。でも、魚はいっさい使わないけどね。僕、魚、キライだから(笑)。あの臭みは…ラーメンのスープに魚ダシを使うようになったのなんて、最近のことじゃないですか? 僕にとっては、ラーメンのスープは豚、鶏、肉の味です」
流行に流されず、もともとあった良いものを、さらに押し出す。それにはやはり、調理法といった「質」も大事だが、何よりも最低限の「量」がないといけないという。
「やっぱりいい材料をたくさん使わないとダメ。どんな工夫しても、おいしくないものから、おいしいものは作れないですよ」
いい材料を惜しみなく使う。ラーメンのチャーシュー1枚とっても、それはわかる。「チャーシュー麺」には良いチャーシューを使っても、「普通のラーメン」には切れ端の固い肉を使う店も少なくない。でも岩上さんは、ラーメンのチャーシューには、よく煮込んだ肩ロースのやわらかい肉しか使わない。具というより、肉料理と呼びたい、ていねいな味のチャーシュー。
そして、お店の看板メニューのひとつであるシュウマイ(550円)もこだわりの一品。使っているのは、自分で肉から挽いた豚バラ100%。まぜものもなく、念入りに二度挽きしてあるので、筋やダマのひとつもない。ここまでなめらかな食感のシュウマイには、有名店や専門店でもまずお目にかかれない。正直、今まで食べた中で一番おいしいシュウマイでした、ハイ。
「クズ肉をまぜたら、絶対ダメ! 味はもちろん、色までくすんだ感じになってしまう」
きれいなピンク色の肉が透けて見えるシュウマイ。薄いのに食感はしっかりしている包み皮も、麺と一緒に毎日お店で打っている。「下で打ってるから」と床を指した岩上さん。ホールのテーブルとイスを除けると、地下室へ続くフタが開いた。