「『私、乳がんだったこと、忘れました』。患者さんのこの言葉がいちばんうれしいです」
人口乳房再建の先駆者として20年にわたり5千人の乳房をよみがえらせてきた、ブレストサージャリークリニック院長の岩平佳子先生は言う。その岩平先生に、乳房再建術の現状を聞いた。
「乳房再建の時期は、乳房切除と同時の一期再建と、手術後しばらくして行う二期再建があります。当クリニックでも’08年までは二期が多かったですが、乳房再建への理解が増えて、今は一期再建が3倍に増加しました」(岩平先生、以下同)
再建には3つのプロセスがあるという。まず【エキスパンダー挿入】。エキスパンダーとは、組織拡張器で、生理食塩水を入れて膨らませる袋。これを乳房切除の後、大胸筋の下に挿入し縫合する。
「私はこの過程がもっとも重要だと考えています。女性の乳房に合ったサイズ、形を選び、正しい角度で入れる必要があります。私が使用しているものは、乳房再建専用で、表面に特殊加工が施され乳房内部で滑るのを防ぎます」
次に【生理食塩水注入】。抜糸1カ月後から月に1度、生理食塩水を6〜8カ月かけて注入して膨らませていく。そして【インプラントに入れ替え】。エキスパンダーを取り出しシリコンインプラントに入れ替える。左右の乳房のバランスを確認し、1週間後に抜糸。
「私は、’94年ごろから欧州を中心に使用され安全性が証明されている、アラガン社製のソフトコヒーシブシリコンタイプを使います。マンモグラフィー検査で圧迫しても破れない丈夫な素材で、10年間無事故で問題が起こったことがありません。種類もサイズ、幅、厚みと200種類以上。ただ国の認可が下りず保険が利きません」
乳房再建術の後、さらに自然な乳房になるように『脂肪注入』する人もいるという。再建で乳房が戻っても、シリコンの輪郭やしわができるのがシリコンの限界。そこで脂肪注入をすると、とても自然な乳房になるそうだ。ある女性は「乳がんになって、いいことがあってもいいですよね」と、インプラントを入れ豊胸したという。
費用は岩平先生のクリニックでは、エキスパンダー挿入術に36万7千円、シリコンインプラント入れ替え術が60万9千円。
「製品の優れたもの、新しいものを使用すればできあがりもいい。ただ残念ながら、製品の進化に行政の認可が追い付いていないのが現実です」