「アメリカのマサチューセッツ総合病院は10月、CDI性下痢の患者に、健康な人の便を凍結したカプセル製剤を経口投与したところ、90%の人で下痢が解消したという研究結果を発表しました」
そう話すのは、順天堂大学教授の小林弘幸先生。CDI性とは、クロストリジウム・ディフィシル(CD)という細菌の感染症のこと。感染者は世界的に増加しており、とくに免疫力の低い人は重症化しやすいのが特徴。病院や高齢者施設での集団感染が多く、ひどい場合は腸閉塞や敗血症を起こし、死に至ることもある。
「便を服用!?と、びっくりしてしまいますが、実は『CD』はほとんどの抗生物質が効かない、厄介な存在。そんな手ごわい存在を、人の便が治してしまったのです。これは、その便に含まれる正常な腸内細菌のおかげ」
私たちの腸内には100種類、100兆個もの腸内細菌が存在しているが、その腸内細菌のバランスがとても重要だと小林先生は言う。
「たとえば、私の勤める順天堂大学では今年6月、2型糖尿病の患者は腸内細菌のバランスが乱れていることを発見しています」
また、幸福物質といわれるセロトニンも、実はその95%が腸から作られている。
「さらに、マウスによるさまざまな実験もおこなわれていて、ふつうの体格のマウスAに肥満マウスBの腸内細菌を移植したところ、AもBと同じように太ってしまったことや、無菌マウスと正常な腸内細菌がいるマウスでは、無菌マウスのほうがストレスに弱いことがわかっています」
今後、健康な人の凍結した便を薬として飲むことで、病気を治すという、驚きの時代が来るかもしれないのだ。
「とはいえ、自分で腸内細菌バランスを整えられれば、それに越したことはありません。食物繊維をしっかりとることはもとより、善玉菌のエサになるオリゴ糖も合わせて取ると、なおよいでしょう。ただし、いちどにたくさん取りすぎると、腸内細菌のバランスが一気に変わり、おなかを壊してしまうことも……。腸内細菌はデリケートな存在です。大事に育ててくださいね」