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「医療費に関しては、どうしても手術や抗がん剤治療など、高額化するがん治療が注目されてしまいがちです。しかし、高血圧などの生活習慣病の場合は、1カ月の医療費が高額になることはありませんが、30年、40年と一生つき合うことになる場合もあります。長期にわたる通院、薬を服用するという手間を加えると、がん治療よりも高額化する可能性があるのです」

 

そう語るのは、東京と神奈川に3カ所のナビタスクリニックを展開する内科医・久住英二先生。

 

「そのうえ50代の人たちは、男女ともに現在の平均寿命から5歳ほど延びる可能性が高い。つまり、老後生活はさらに延長されるんです」(久住先生・以下同)

 

生活習慣病による医療費の増大が、社会問題となるのは必至だ。生きている分だけ、かさみ続ける医療費ーー。いったいどのくらいの支出になるのか。久住先生のアドバイスを基に、シミュレーションしてみた。

 

■糖尿病

 

「糖尿病の治療はすごく進歩しています。以前、処方薬は2種類ほどしかなかったのですが、最近は5種類くらいに増え、併用パターンも幅広くなりました」

 

一般的な2型糖尿病は、炭水化物や糖質の取りすぎによるもので、ホルモンの一種「インスリン」の血糖値を下げる能力を超え、血液中の糖分濃度が高くなる。

 

「血糖値が高くなると、血管の内皮細胞が傷つき、動脈硬化が進みます。それにともない、糖尿病性腎症、糖尿病網膜症や、命に関わるような脳梗塞、心筋梗塞を併発します」

 

治療費の内訳は次の通りだ。

 

「病状が安定していれば、受診は3カ月に1度で済みます。1回の診察費は8,000円ほどなので、年間3万2,000円程度です」

 

標準的な処方薬の薬価は、インスリンを効きやすくするメトホルミンが1日32円。血糖値の高さに応じてインスリン分泌を促すDDP-4阻害薬が1日150円。血液中の糖分を尿中に排出させるSGLT2阻害薬が1日200円だ。

 

薬価は1日合計382円、1年(×365日)で13万9,430円になる。これに1回の調剤につき1,500円(3カ月に1回の場合は年間6,000円)の調剤費が加算されるとする。診療費と薬の値段、調剤費を合わせると、1年で17万7,430円と計算できた。

 

治療期間に関しては、今回は50歳で発症し、将来的に現在の女性の平均寿命87歳より5歳延びた92歳の誕生日まで治療を受けることを想定(以下同)。保険自己負担額としては、50〜69歳までが3割負担(年間5万3,229円×20年)、70〜74歳までが2割負担(3万5,486円×5年)、75〜92歳までが1割負担(1万7,743円×17年)で、糖尿病の総額医療費は154万3,641円となるのだ。

 

「さらに、失明のリスクもある糖尿病網膜症となれば、光凝固術を受ける必要も出てきます。1回のレーザー治療で、自己負担額は3〜5万円ほどで、複数回に及ぶ可能性もあります」

 

■高血圧

 

「50歳くらいから発症する人が多く、将来的に心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高まるということでは、糖尿病と似ている生活習慣病といえます」

 

もっとも標準的な治療薬としては、降圧剤のカルシウム拮抗薬で、1日50円の薬価。同薬と併用して使われるのがARB。血圧を上げる原因となる、血中のアンジオテンシンIIの働きを弱めるという薬で、1日の薬価を120円で計算。この2錠を併用すれば、1日の薬価は合計170円だ。

 

「症状が安定していれば、医療機関への受診も3カ月に1回くらいが妥当。血圧外来のみであれば、1回7,000円ほどです。また、高血圧の薬は新しい薬が多い糖尿病とは違い、ジェネリック薬が豊富にあります。その場合は、3割ほど安価になります」

 

これを一生続けるのかというと、それは患者の病状と考え方次第だという。

 

「高齢になって“お迎え”が近くなれば、あえて治療を続けなくてもいいかもしれません。薬は、必ず副作用があります。降圧剤では、立ちくらみが起き、転倒すれば骨折の原因にもなります。ですから、深刻でない高血圧患者の場合、私は平均寿命の10年ほど前、つまり女性では80歳、男性では75歳くらいを目安に、『そろそろ中止してもいいのでは』と提案するようにしています」

 

糖尿病同様に、年齢によって変化する自己負担割合を計算した。50〜82歳までを薬の服用機関として、診療費と薬の値段、調剤費を計算、以降の92歳までを診療費のみで計算すると、総額76万7585円となった。

 

これらはあくまで試算であり、概算。服用する薬の種類が増えたり、病状が悪化すれば診療回数も増える。“医療費貧乏”にならないためにも、体をいたわる日常生活が大事なのだ。

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