6月1日、125万件もの年金情報が流出したと、日本年金機構が発表した。数日たって詳細が明らかになるにつれ、情報管理のずさんさが露呈し、経済ジャーナリストの荻原博子さんは憤りを覚えているという。

 

機構の問題点は、おもに3つ。

 

「1つ目は、職員や組織の認識の甘さです。怪しいメールを複数の職員が開封したことや、流出したうちの55万件は内規に反して情報漏えいを防ぐパスワード設定がなかったことなどは、危機管理の欠如が原因でしょう。情報管理の基本中の基本が徹底できていないとは、あきれるばかりです」

 

2つ目は、初期対応の失敗。ウイルスに感染しても1台のパソコンで食い止めるよう、適切で十分な処置をとっていれば、流出を最小限に抑えることができたはず、と。

 

「3つ目は公表の遅さです。ウイルス感染が発覚したのは5月8日。潮崎厚生労働大臣が報告を受けたのは28日。一般への発表は6月1日ですから、隠ぺいを疑われても仕方ないでしょう。機構がサイバー攻撃を受けたのは事実ですが、これほどまでに大規模化したのは、対応のまずさが重なった結果。まさに人災といっても過言ではありません」

 

考えられる被害は、年金を横取りされる不正受給。2次被害として、情報が悪徳業者にわたり、振り込め詐欺詐欺の標的になる恐れもある。

 

「自分の年金は大丈夫か」、誰もが心配だろう。機構が設けた専用電話回線には、2日までに10万件近い問い合わせがあったという。情報漏れがあった人には、おわび状が郵送される。電話連絡はないので、不審な電話にはくれぐれも注意するように。

 

「重複する情報もあるので件数は減ると思いますが、仮に125万通のおわび状を郵送すると、1億円かかります。専用電話回線の設置や、電話対応のための人件費も必要です。これらの費用は、私たちの年金から支出されます。情報流出を逃れた方も、実は、被害を受けているのです」

 

いっぽうで、マイナンバー制度の実施が来年に迫っている。しかし、私たちは「もしマイナンバーがサイバー攻撃を受けたら、もっと重要な個人情報が流出する」という不安を払しょくできない。

 

「政府は、マイナンバー制度をいったん保留にしていただきたい。何よりもまず、年金情報流出問題の検証と、セキュリティ体制の強化を徹底すべきだと思います」

 

’07年の消えた年金問題は第1次安倍内閣のころに起きた。当時、首相は「最後の1人まで探し出して年金を払う」と公約したが、今も約2千万人の不明な年金が残ったままだ。

 

「今回こそ、うやむやで終わらせず、真摯な検証を行わなければ、国民の信頼は取り戻せません。マイナンバー制度は、国民が安心できる体制を構築してからでも遅くないと思います。私たちも、政府や関係機関任せにせず、チェックの目を向け続けたいものです」

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