「母という存在は、誰にとっても特別なもの。その母との絆が不安定になり、関係に悩み苦しむ『母という病』が近年増えています」
医学博士で作家の岡田尊司氏はそう指摘する。精神科医として京都医療少年院に勤務し、親子関係の問題を見つめてきた岡田氏が、母親という十字架に苦しむ人へ向けて『母という病』(ポプラ社)を出版した。
「『母という病』は絆の病、愛着の病のことです。愛着とは人と人を結ぶ能力のことで、人格の土台部分を形づくり、その人の一生に影響を及ぼします」
これまで愛着の問題は、虐待など特別な家庭の問題として扱われることが多かった。しかし近年、それが一般の家庭で育った人たちにも表れるようになっているという。「現在では3分の1の子供が、母親への不安定な愛着を示し、大人になってもその割合は変わりません」(岡田氏)
そもそも愛着とは、生物が生き残っていくための”知恵”として築いてきた仕組み。これには「オキシトシン」というホルモンが密接に関係している。オキシトシンは「愛情ホルモン」とも呼ばれ、不安やストレスを和らげてくれるとされる。
「出産の際や赤ちゃんへの授乳時にも、オキシトシンは分泌されます。これがたっぷりと分泌されている人は、人に対して信頼や共感を持ちやすい。しかし、現代人はオキシトシンが不足しがちで、愛着も不安定になっています」
摂食障害や依存症、うつなど、オキシトシン不足による弊害は多いという。そしてその典型的な例が「母という病」だ。
「まず不安定な環境で育った人。お母さんの愛情が一定でないと、子供はダイレクトにその影響を受けてしまいます。人の顔色を見てしまう、『NO』と言えない人も多いです。また、潔癖すぎる、妥協できない、白か黒かはっきりしないと気がすまない……といった人。幼いころから『よい子』だけを求められていたためかもしれません」(岡田氏)
これらが続くと、自身の家庭生活に支障をきたすことも。離婚や、自分の子育ての際に虐待につながってしまう可能性もあるという。もしあなたが母との間にぎくしゃくしたものを感じているなら、まずは向き合ってみることが大切だ。