「17歳で産んだ息子が、今年やっと成人して大学に通っています。この子は私の誇りだし、産んだことは後悔していません。でも、当時の孤独な気持ちは、二度と思い出したくないんです」
息子の成人式の写真を見ながら涙ぐむのは、神戸市内に住む山本美羽さん(仮名・37)。山本さんは、地元の進学校に通っていた高1の冬に妊娠が判明。17歳で長男を出産し、通っていた学校を辞めた。現在は、子どもと2人暮らしのシングルマザーだ。
文部科学省の調査によると、’15〜’16年度に高校側(全日制・定時制3,571校)が把握した生徒の妊娠2,098件のうち、妊娠を理由に学校を退学せざるをえない状況に追い込まれていた生徒は、全体の約3割にあたることがわかった。
「学業の不継続は、将来世代の貧困を生みかねない」と問題視した文科省は、今年3月末、教育委員会などに対し、「妊娠・出産を理由に、安易に退学させないよう支援や配慮を求める」と学校側に通知を出した。
そこで本誌は10代で妊娠・出産を経験した女性に、自らの経験を語ってもらった。
「妊娠がわかったのは高1の冬。父がすぐに休学手続きをとったので、それ以降、私は高校に通っていません。当時PTA会長だった父は、表沙汰にしたくなかったんだと思います。近所の目もあるので、外出もするなという感じで、息苦しかった……」
冒頭の山本さんはそう語る。学校にも妊娠の事実は告げないままの休学だった。相手は、別の高校の同学年の生徒。
「いま考えれば2人とも無知だったと思います。妊娠・出産すれば、どんな責任を伴うのか。どんな生活が待っているのか想像もできなかった」
そう振り返る山本さんだが、自分でも不思議なほど、「産まなきゃ」という気持ちが強かった。彼とも将来的には一緒に育てようと約束もしていたが、周りの大人は反対した。
「母は私の気持ちをわかってくれましたが、父や彼の両親からは、何度も、『中絶してほしい』と頼まれました」
しかし、山本さんの気持ちは変わらなかった。彼とは別れ、翌春に長男を出産。実家で育児する日々が始まった。
「通っていた高校には戻れない。でも、将来のことを考えると高校だけは卒業したかったから、出産してすぐ、通信制高校に編入したんです」
2年かけて通信制高校を卒業し、すぐに医療事務の資格を取得。就職活動を始めるが、乳飲み子を抱えた10代の山本さんを雇ってくれる会社は、なかなかなかった。
「『え、あなた17歳で産んだの? シングル?』って、興味本位で根掘り葉掘り聞かれます。面接のあとの帰り道は、何度も泣きました」
子どもの教育に関しても、手探りだった。
「幼稚園の入園に、願書が必要なことさえ知らなかったんです。息子が幼稚園に入る時期の直前になって気づいて、近所の幼稚園に片っ端から問い合わせたら、どこからも『願書の受付けは締め切りました』と断られて。情けなかった」
そうしたいくつもの苦い経験はふだんは心の奥底にしまいこんでいるという山本さんだが、同じ悩みを抱える“少女たち”へのメッセージを求めると、涙ながらにこう語った。
「生活能力もないのに、妊娠・出産すべきではないかもしれません。でも、産む決断をしたコたちには、周りの大人がもっと、『こんな制度があるよ、こんな仕事に就けるよ』と情報提供し、希望を持たせてあげてほしい。もう、私のような孤独な思いをするコが出てほしくないんです」