「人の体は、洗えば洗うほど臭くなります! 毎日ゴシゴシと洗うことで、かえって臭いを増長させている人がじつに多いんですよ」
そんな衝撃的な話をしてくれたのは、臭いのスペシャリスト、五味クリニックの五味常明院長。
スメハラ(スメルハラスメント=臭いによって他者に不快感を与えること)という言葉もよく聞くようになるなど、たくさん汗をかくこの時期、自分の体臭はとても気になるところ。1日数回体を洗うという人も多い。それが悪臭の原因とは……。そもそも、人の体はどうして臭うのだろう?
「まず、汗腺にはエクリン腺とアポクリン腺があり、エクリン腺から出る汗は99%水のため臭いません。ところが、アポクリン腺から出る汗はアンモニア、ピルビン酸、タンパク質など栄養をたっぷり含んでいるうえに、塩分はほぼ含まれないので、皮膚の上に臭いを放つ細菌がそれらを餌として繁殖するため、臭うのです」(五味先生・以下同)
五味先生によれば、臭いの原因として注目すべきなのは、汗に含まれる皮脂やタンパク質を分解する“細菌”なのだという。皮膚にどんな細菌がすんでいるかで、体臭が左右されるというのだ。
人間の体にすむ菌には、いいニオイを出す細菌と、臭いのもとになる細菌の2種類があり、前者は“表皮ブドウ球菌”と呼ばれ酸性の肌を好み皮脂膜などを餌にしている。後者は“黄色ブドウ球菌”“ジフテロイド菌”“真菌(カビ)”といい、アルカリ性の肌を好む雑菌だ。
「健康な皮膚では表皮ブドウ球菌がほとんどを占めるため、常在菌といわれています。これは腸内のビフィズス菌のような存在、『皮膚善玉菌』と考えればわかりやすいと思います。この菌が多いと、体はいいニオイを保てるのです。ところが、なんらかの要因で皮脂上の善玉菌の数を、悪臭を放つ菌、言い換えれば『皮膚悪玉菌』が上回ってしまうと、瞬く間に形勢が逆転。脂肪酸やアンモニアなどを原因とする不快臭を作り出すようになってしまうのです」
細菌は、その個数で勢力が決まる。たとえば、皮膚に1億個も「皮膚善玉菌」がすんでいたとしても、1億1個の「皮膚悪玉菌」が存在すれば、皮膚悪玉菌がたちまち優位になってしまうのだ。
「皮膚悪玉菌に負けないよう、皮膚善玉菌が減らないように心がけることが大切というわけです」
皮膚善玉菌を減少させてしまう原因が、冒頭にあった“体の洗い方”に関係しているという。
「表皮ブドウ球菌は肌の上で遠慮がちに生活しています。そのため体をゴシゴシ洗うと、表皮上の表皮ブドウ球菌の99%が流されてしまうのです。そのうえ、皮膚善玉菌の餌となっている大切な皮脂の膜までも流れてしまうのです。残った表皮ブドウ球菌は必死にもともと存在していた数に戻そうとしますが、それにはじつに24時間もかかります。その間に表皮ブドウ球菌よりも強い、黄色ブドウ球菌などの雑菌がここぞとばかりに増殖してしまうのです」
洗いすぎで皮脂膜がなくなってしまうことは、さらなる悪臭の原因も作ってしまうという。
「皮脂膜が流れすぎると、首筋や頭、わきなど体毛の集中している部位にある皮膚組織の中の皮脂腺が、失われた皮脂を補うために、皮脂をたくさん出そうとします。するとどうなるか? 突然たくさんの皮脂が出るわけですから、皮脂腺の出口で皮脂が詰まってしまうのです。たまった皮脂は時間とともに酸化し、古い油のような臭いを放ちます」
皮脂腺に皮脂が詰まってしまうと、皮膚の上には表皮ブドウ球菌の餌となる皮脂膜も足りない状態に。前述した黄色ブドウ球菌など雑菌の増殖にもつながるという。
「おまけに、皮脂膜がなくなると脚や腕など皮脂の分泌が盛んではない部位は、体内の水分が蒸発しやすくなってしまいます。その際に、臭いガスを発生するのです」
乾燥肌の人は臭いやすいというわけだ。年をとればとるほど肌は乾燥しやすくなるので、読者世代は気をつけたいところ。体の洗いすぎが臭いの原因だということがわかってきたが、五味先生は頭の洗い方にも注意を促す。
「頭皮も皮膚の延長です。洗いすぎれば常在菌が流されて、悪臭のもとである菌が増えてしまいます。頭皮ではなく髪もゴシゴシこするように洗う人がいますが、洗いすぎることでキューティクルが傷ついたり、枝毛になったりダメージを与えてしまいます。すると、そこにあかやホコリなど臭い成分が付着しやすくなり、やはり臭いの原因になってしまいます」