「スマートフォンの使用を1時間以上続けていると、口臭が発生します。これを私は“スマホ型口臭”と呼んでいます」
思わずギクッとしてしまうような話をしてくれたのは、口臭専門の歯科医で中城歯科医院の院長・中城基雄先生だ。日本歯科医師会が行った歯科医療に関する調査(’16年)によれば、じつに8割以上の人が「自分の口臭について不安を感じたことがある」と回答している。
中城先生のクリニックには、全国各地から患者さんが訪れる。これまで3,000人以上の口臭に不安を抱える人を診察してきたという中城先生がスマホの使用と口の臭いとの関係を発見したのも、1人の患者さんからの訴えがきっかけだった。
「2年ほど前、ある患者さんの呼気を院内の計測器で測定しても臭気が数値に出ない。でも、その患者さんは『たしかに臭う、気になって仕方がない』とおっしゃるので、呼気を採取する専用の袋を持ち帰ってもらいました。そして、自宅で本人が気になったときの息を採取してもらい、その袋をクリニックで計測したところ、臭気が出たのです。そのとき、患者さんは長時間にわたってスマホの画面をみていたことがわかりました」(中城先生・以下同)
以降、先生はスマホを長時間使った人でデータを集め、口臭が確認されるタイミングを調べた。その結果、「1時間以上スマホを使っていると臭いの数値が上がる」ことに行きついた。
「いったんスマホの使用をやめると数値は下がりますが、また集中して1時間以上使うと数値が上がります。明らかに口臭の原因と考えられます」
そのメカニズムはこうだ。スマホを長時間していると、体を動かさずに画面を見つめているため、過緊張状態になる。すると、交感神経優位の状態を招き、唾液の分泌量が少なくなる。その間、舌に残った食べかすをエサに“口臭発生菌”が増殖する。唾液には口の中を掃除する役目もあるのだが、唾液が出ないと口臭はさらにきつくなる。
このスマホ型口臭は、特に40代以降の女性にとって注意が必要だと中城先生は言う。
「女性ホルモンの変化により、40代以上の女性は乾燥体質になりがちです。唾液が出にくく、口の中が乾きやすいため、口臭発生菌が繁殖しやすくなるのです。スマホの長時間使用は、それに拍車をかけてしまいます」
スマホ型口臭を防ぐには、まずは唾液を分泌させること。そのためにも、スマホの連続使用は長くて1時間程度にとどめたい。次に唾液を出すために体を動かす。伸びをしたり、顎の下にある唾液の出るポイントをマッサージして唾液の分泌を促す。人としゃべることも顎を動かすことになるのでよいそうだ。
【顎の下にある唾液腺を親指でマッサージ】
<耳下腺>
耳たぶの下を、後ろから前へぐるぐる回すように人さし指で押す(10回程度)。
<顎下腺>
顎の骨の内側の柔らかい部分に親指をあて、耳の下〜顎の下にかけて押す(10回程度)。
<舌下腺>
両手の親指をそろえ、顎の下から舌を突き上げるようにして押す(10回程度)。
そのほか、過度なダイエットをしたり、早食いだと食事の際のかむ回数が少なくなったり、唾液が十分に分泌されない。野菜をしっかり取り入れた食事をよくかんで食べると、腸内環境も整ってくるという。腸の働きがよくないと、腸の臭いが口臭として出てしまう。
「舌に残った食べかすの除去も忘れないでください。舌専用のクリーナーやブラシ、泡のハミガキなどを使って舌のひだの奥までもぐりこんだ汚れを取り除くことで、菌の繁殖を防ぐことができます。私たちは食べないと生きていけませんから、舌を無菌状態にしておくことは不可能です。でも、唾液をたくさん出すことで菌から体を守ることはできるのです」