「本来、病院は患者のためのもの。それが“医療者のほうが上から目線”という状況がずっと続いてきました。今、徐々にですが、患者にやさしい病院にしようという試みを、多くの病院が始めています」
こう話すのは、認定NPO法人「ささえあい医療人権センターCOML」(以下・コムル)理事長の山口育子さん。コムルは’90年に活動を開始して以来、患者とその家族から6万件を超える電話相談を受け、医療機関を患者目線で見直す「病院探検隊」などの活動を続けてきた。
「私自身、25歳のときに、卵巣がんと診断されて手術をしました。つらい抗がん剤治療を受けるなかで、自分の欲しい情報が得られず苦しみましたが、治療が後半に入ったころ、セカンドオピニオンで出会った医師からの『自分自身のことは自分で決める。これからの時代、患者さんの意思を尊重することが大切ですよ』という言葉に救われました。それをきっかけに、患者の主体的な医療参加を目指すコムルの活動に参加したのです」(山口さん・以下同)
その活動のなかでも、院内見学・受診を通して改善の提案をする「病院探検隊」が全国の医療機関から注目されている。
「これは病院のトップからの依頼で、一般の患者として病院内を見て回り、改善点を提言するという取り組み。’94年の開始以来、これまでに90以上の病院に“出勤”しました」
そのひとつが、’15年に実施依頼を受けた慶應義塾大学病院だ。
「臨床研究中核病院に名乗りを上げたところ、厚労省から『患者目線の欠落』を指摘され、承認に“待った”がかかった。そこで、どこを改善したらいいか指摘してほしい、ということでした。実際に足を運ぶと確かに、医療者のほうが主人公であると感じる場面に随所で遭遇しました」
コムルでは、詳細な改善ポイントを報告書にまとめて提出。すると翌年、その成果が表れ、臨床研究中核病院の認可が下りたという。そんな山口さんにとって、患者にやさしい病院とはどんなものか。20項目のチェックリストとして掲げてもらった。
「今回は、お見舞いなどで病院を訪問した際、その病院がいかに患者目線で医療を行っているかを判断するために作成しました。ポイントは『整理整頓(安全管理につながる)』『プライバシーの保護』『衛生面』『スタッフの雰囲気(患者に寄り添っているか、また危機管理ができているか)』。これらを総合して見れば、その病院のレベルがわかります」
■玄関や受付の状況
【1】駐輪場の自転車は整然と並んでいるか
【2】傘立てに晴天でも傘が残っていることはないか
【3】受付職員が症状を大声で尋ねたりしていないか
【4】院内の案内図はわかりやすいか
【5】初診の申込書を書く場所はプライバシーが守られているか
【6】初診、再診の待ち時間の案内はあるか
【7】待合室の椅子の配置は座りやすいか(壁に設置された手すりの前にソファが置かれ、使えないといったケースも。利用者の立場を考えた配置かチェック)
「外来の受付で、大声で病状を確認するスタッフがいたりしたら、プライバシー保護が徹底されていません。また、晴れた日に傘立てが傘であふれているようでは、管理者の目が隅々まで行き届いていない可能性があり、安全管理の面も心配になります」
■院内のホスピタリティ
【8】待ち時間を快適に過ごせる図書コーナーなどはあるか
【9】トイレに気になる悪臭はないか
【10】トイレ内に手荷物を置くスペースはあるか
【11】温水洗浄装置のついたトイレはあるか
【12】トイレに清掃や消毒をした記録が表示されているか
【13】病室に入院患者の名前が明記されていないか(患者の個人情報に考慮し、病室の名札をやめ、ナースステーションに表示するなどの配慮をしているかがポイント)
【14】入院患者と見舞客が話をする談話室は快適か
【15】避難の際の非常口にモノが置かれていないか
【16】病院に意見する投書箱が書きやすい場所に設置されているか
「患者目線の病院では、待ち時間を快適に過ごすための工夫がなされているものです。また、トイレは衛生面をチェックするのにわかりやすい場所。悪臭がするようでは、病室などの衛生面も気になります。また投書箱の存在も大事。気兼ねなく患者が投書でき、それを管理者が病院に反映できるシステムになっているか。これで病院の雰囲気はずいぶん変わってくるのです」
■医療スタッフの意識
【17】医師や看護師が廊下の真ん中を歩いていないか(医療従事者が平気で廊下の真ん中を歩くのは、上から目線の象徴。エレベーターの開閉ボタンを連打するのも同様)
【18】ナースステーションから不用意な笑い声が聞こえないか
【19】通りがかりのスタッフから、あいさつや声掛けはあるか
【20】スタッフに気軽にモノを頼める雰囲気か
「物腰は柔らかくても、患者目線でないスタッフはたくさんいます。最近『大丈夫ですか』という声掛けをするスタッフをよく見かけますが、あれは不適切。もっと具体的に『何かお困りですか』『どちらに行きたいのですか』と言うことで、相手が不審者かどうかもわかります。スタッフは危機管理も担っていることの自覚が必要です」
とはいえ、病院側が患者目線になるだけで、医療者と患者のコミュニケーションすべてがよくなるわけではない。山口さんが自身の治療経験もふまえて提唱しているのが「医師にかかる10カ条」だ。
《1》伝えたいことはメモして準備
《2》対話の始まりはあいさつから
《3》よりよい関係づくりには、あなたにも責任が
《4》自覚症状と病歴はあなたの伝える大切な情報
《5》これからの見通しを聞きましょう
《6》その後の変化も伝える努力を
《7》大事なことはメモをとって確認
《8》納得できないときは何度でも質問を
《9》医療にも不確実なことや限界がある
《10》治療方法を決めるのはあなたです
医師も人間。上手に付き合い、最後は自分で決めることが求められるということだ。