「放っておくと、がん化する恐れがあります」
「抜かないと、取り返しのつかないことになります」
いま歯科治療の現場で、患者がむやみに脅かされるケースが横行している――と嘆息するのは、歯科医師の斎藤正人氏。斎藤氏はできる限り抜かずに治療して歯を守る、保存歯科のエキスパートだ。院長として治療にあたるサイトウ歯科医院は、冒頭のような宣言をうけた患者さんの“駆け込み寺”的な存在となっている。
「私の見立てでは、丁寧に治療をすれば十分歯を残せるケースがほとんどでした。なかには『この歯を抜くなんて?』と目を疑うケースも増えています」
このような“悪徳歯科医”を生む背景を、斎藤氏が解説する。
「歯科医院は、いまや都市部ではコンビニよりも乱立しているのが実情です。数が多すぎると、その分不勉強で技術の不確かな歯医者も多くなります。悪質な治療を受けて症状が改善されず、もっといい歯科医はいないかと、歯科医をハシゴし続け、ひどいことになった患者さんを診ることもあります」
漫然と治療を委ねていると、取り返しのつかない結果になる「通ってはいけない」歯科医院は、ちまたに多く存在するというのだ。では、どう見分ければいいのか。斎藤氏が解説してくれた。
冒頭のとおり、まず斎藤氏が憤るのは「がん化する」などと言い、むやみに脅かすケース。
「常識ではありえない話ですが、患者さんの口の中をマイクロスコープなどで鮮明に見せ、『こんなに汚い!』と脅かし、怖がらせる医師は1人や2人ではありません。北海道や九州から私のところに駆け込んできた患者さんが、まさにこうした脅かしを受けていました」
その意図は、抜歯をすすめるため。では、なぜ歯科医は抜きたがるのか。
「第1に、現在の歯科の医療保険制度に問題があります。歯を温存する治療より、抜歯という外科的処置を施すほうが、診療報酬点数がより高く設定されており、歯科医の利益につながるのです」
また同様の理由で、問題なくかめている親知らずも「抜くのが常識」と、頭ごなしに抜歯をすすめるケースもあるという。
「親知らずだからといって、イコール不要な歯ではありません。使える歯をむやみに抜きたがる歯科医は、患者さんより自分の利益を優先しているのです」
保険で「よい義歯は作れません」と言い切る歯科医も要注意だ。
「保険診療で作るプラスチックの義歯は、腕のよい技工士であれば良質なモノができます。歯科医師自身に義歯を作る腕前があれば、利益は出ますが、保険内で技工士に義歯を依頼すると、患者から払われる代金は右から左に動くだけ。歯科医の手元には利益が残らないのです。よって、『保険内ではよい義歯は作れません!』と切り捨てる歯科医は少なくありません」
そうした意味では、自由診療で、歯科医にとって大きな利益が見込めることから、近年もてはやされるのが「インプラント」である。
インプラントとは、顎の骨にチタン製の人工歯根を埋め込み、その上に人工歯をかぶせる治療だ。本物と見まがう外見を取り戻すことができ、硬い肉もしっかりかめるようになることから、夢の治療ともてはやされた時期もあった。
だが、昨今は高額すぎることや、格安をうたった粗悪な治療、治療後の後遺症など各地でトラブル続きだと、斎藤氏は警告する。
「インプラントはよいことばかりではありません。まず抜歯ありきの治療です。頭蓋骨にドリルで穴を開け、金属棒を打ち込み固定するようなことが長い目でみて、体に影響が出ないとは思えません。また、かめすぎることで、頭痛や顎関節症など、後遺症を訴えるようになった患者さんを診察することはよくあります」
一方、歯科医の治療姿勢をチェックすることも大事だ。
「口の中を一瞥するだけで、ろくすっぽ説明せず、次々と“大きく削ってはかぶせて”を繰り返し、長く通院させる歯科医がいます。しかし、ちょっと研磨するだけで、治る初期虫歯など、削る必要のない歯を大きく削ってしまうと取り返しがつきません。患者さんに説明と同意をとらず、やみくもに治療するのは言語道断です」
初診時に「どんなことでお困りですか」と、患者さんの声に耳を傾けるのは歯科医の基本。現在飲んでいる服用薬や持病、生活習慣についても、聞き取りを怠るようではいけません。さらには、予防や歯磨きなどセルフケアの指導をしてくれるかどうかも、良心的な歯科医であるかどうかを見極めるポイントだという。