「あのさ、オレだけど……」と、息子を装う電話で金銭をだまし取る詐欺が、警察庁に「オレオレ詐欺」と命名され早15年。現在、その手口はますます巧妙になり、還付金がもらえると偽り金銭をだまし取る還付金詐欺や、スマホのデータ通信料の架空請求など、「特殊詐欺」と呼ばれる犯罪は増加の一途をたどっている。
また、事前に家族構成や資産状況を聞き出して詐欺をはたらく「アポ電詐欺」では、凶悪なケースが目立ち、2月には、東京都江東区で80歳の女性がアポ電を受けた後に強盗に押し入られ、殺害されるという事件も発生した。
警察庁の最新の統計によると、特殊詐欺による昨年の被害総額は約356億円。1日あたり、1億円近い被害が出ていることになる。
詐欺や消費者問題に詳しい藤本大和弁護士は、被害者像をこう説明する。
「とくに狙われやすいのは家庭にいる中高年女性。日中、詐欺師による電話や訪問を受け、詐欺に遭ってしまう」
昼下がりの中高年女性が狙われる理由を藤本さんが解説してくれた。
「詐欺グループは、孫の教育資金や子どもの結婚資金、老後の生活費として、まとまった額のお金を貯めている中高年以上の女性を狙っています。とくに家庭にいる主婦は、一家の財布のひもを握っていることが多い。ですから、わざと夫のいない昼間の時間帯を狙って詐欺を仕掛けるのです」(藤本弁護士・以下同)
詐欺師は、相手に考える時間を与えず、金銭を出すよう巧妙に要求してくる。
「還付金詐欺なら、昼過ぎに電話をかけ、『還付金の受取り期限は今日までなので、急いで手続きを』と相手を焦らせ、銀行の取引が終了する15時までにATMで手続きするよう指示します。相手を慌てさせることで、判断力を鈍らせる手口です」
冷静になった翌日、だまされたと気づいても後の祭り。夫に無断で大金を振り込んでしまったことを打ち明けられず、弁護士を頼ってやってくる女性が多いという。
「みなさん、口をそろえて『夫には絶対に言えない』とおっしゃいます。じきに夫が定年退職して収入が減るというときに、老後のために貯めていた資金をほとんどだまし取られてしまった。そんな状況で打ち明けたら激怒の末、離婚されてしまうんじゃないか、という不安がその理由です。とくにこの年代の夫婦はお互いに距離があることが多く、コミュニケーションの少なさから妻の独断でお金を動かしてしまうケースがままあるようです。詐欺師もそうした背景を知って、わざと中高年の女性に狙いを定めているのかもしれません」
また、長く家庭で子育てに専念してきた専業主婦の場合、周りに相談できる相手が少なく、会社などのコミュニティにも属していないため、新手の詐欺の手口の情報に疎い場合が多い。
「逆に若者の場合、インターネット上のSNSを通して詐欺の手口が広く共有され、簡単にはだまされないようになってきています。たとえば、『地方裁判所管理局』という存在しない機関を名乗り、『訴訟最終告知のお知らせ』として電話連絡を要求するハガキを送り、架空請求を行う振り込め詐欺があります。裁判や訴訟といったキーワードで不安をあおり、連絡を取らせる手口ですが、このハガキは詐欺だとする警告がツイッターで拡散され、若者の間ではよくある詐欺として認知されています」
周りから情報が入ってこない、インターネット慣れしていないなど“情報弱者”の条件がそろいがちな専業主婦の中には、要求された金銭を疑わずに振り込んでしまう人もいる。
「怪しいなと思ってネットで検索しても、使い慣れていないため適切なキーワードで検索できず、目立った検索結果が出てこない。すると、それなら大丈夫かと逆に安心して詐欺師の罠にはまってしまうということもありえます」