「あのさ、オレだけど……」と、息子を装う電話で金銭をだまし取る詐欺が、警察庁に「オレオレ詐欺」と命名され早15年。現在、その手口はますます巧妙になり、還付金がもらえると偽り金銭をだまし取る還付金詐欺や、スマホのデータ通信料の架空請求など、「特殊詐欺」と呼ばれる犯罪は増加の一途をたどっている。
また、事前に家族構成や資産状況を聞き出して詐欺をはたらく「アポ電詐欺」では、凶悪なケースが目立ち、2月には、東京都江東区で80歳の女性がアポ電を受けた後に強盗に押し入られ、殺害されるという事件も発生した。
警察庁の最新の統計によると、特殊詐欺による昨年の被害総額は約356億円。1日あたり、1億円近い被害が出ていることになる。
詐欺や消費者問題に詳しい藤本大和弁護士は、被害者像をこう説明する。
「とくに狙われやすいのは家庭にいる中高年女性。日中、詐欺師による電話や訪問を受け、詐欺に遭ってしまう。自分が財布のひもを握っているため夫にも相談できず、弁護士に助けを求め駆け込んでくる女性が後を絶ちません」
周りから情報が入ってこない、インターネット慣れしていないなど“情報弱者”の条件がそろいがちな専業主婦の中には、架空請求を行う振り込め詐欺で要求された金銭を疑わずに振り込んでしまう人がいる。
「怪しいなと思ってネットで検索しても、使い慣れていないため適切なキーワードで検索できず、目立った検索結果が出てこない。すると、それなら大丈夫かと逆に安心して詐欺師の罠にはまってしまうということもありえます」(藤本弁護士・以下同)
インターネットリテラシーの低さは、詐欺に引っかかるだけでなく、自身が加害者になりえるトラブルも招くという。
「フェイスブックなどのSNSに、知人のプライバシーに関わるネガティブな投稿をしたものが拡散され、名誉毀損として訴えられるケースがあります。本人はウワサ話感覚かもしれませんが、度が過ぎれば訴訟に発展する恐れがあると覚えておきましょう。自分の行為がどんな結果を招くかを客観的に考えられない人は、詐欺にも引っかかりやすいといえます」
詐欺の手口が複雑化・多様化するいっぽう、規制する法律はそれに追いつかず、まさにイタチごっこの状態。電話やメールを通じた特殊詐欺のほかにも、直接自宅を訪問し「家の外壁の強度に問題がある。このまま放っておくと危ない」と不安につけ込み高額な修理費を払わせる点検商法なども、いまだ横行している。
万が一引っかかってしまった場合、だまし取られた金銭を取り戻すことはできるのだろうか。
「正直なところ、お金が戻ってくる可能性は低いですね。たとえ警察が動いたとしても、新手の詐欺の場合、法律の整備が追いついていないなどの理由で逮捕に踏み切れないケースも。しかも詐欺グループはお金を海外の口座に移し、返すお金がないフリをすることもあるので、結局、被害者は泣き寝入りせざるをえません」
警察による摘発数は増えてはいるものの、逮捕者は現場で動く“下っ端”にとどまり、詐欺グループの主犯格までは捜査の手が届かないのが現状だ。
「詐欺師の餌食にならないためには、まずどんな手口があるかをよく知ることが大事です。そのうえで、怪しい電話や訪問者があったときは、国民生活センターへ相談を。同センターには、全国から寄せられた詐欺の情報が蓄積されています。典型的な手口や常習犯の場合、連絡のあった会社名や状況を話せば、詐欺と判明するはず」
詐欺師はさまざまな手口、トークでアプローチしてくるため、一見それと気づかない場合もあるが、金銭の要求をされたら「危ない」と認識して。その時点で、警察へ相談する手もある。
「だます意図を持って金銭の要求をした場合、詐欺罪の未遂として扱われます。警察に相談すれば、対処法についてアドバイスをしてくれるでしょう。典型的な詐欺の場合、警察から相手に連絡を取って対処してくれることもあります」
訪問型の詐欺では、一度玄関に入ると、追い返そうとしても粘られることがあるが、そんなときは、すぐに警察を呼んでOK。
「これは不退去罪というれっきとした犯罪。躊躇せず、すぐに警察に連絡してください。そして、知らない人を簡単に家に入れない心構えも必要です。最悪の場合、アポ電強盗という命に関わる犯罪に巻き込まれる危険があることを忘れずに。高齢だったり、一人住まいで不安という人は自衛のためモニター付きのインターホンを設置するなどの対策も検討してみては」