アフリカ医療連盟会長のアミット・タッカー医師と会談する小川医師。 画像を見る

8月30日、日本発の治療法が、世界のがん治療を変えることにつながるような画期的な話し合いが横浜市で行われた。第7回アフリカ開発会議に参加する要人としてケニアより来日していた、アフリカ医療連盟会長のアミット・タッカー医師一行と、日本の医師らとの会談だ。

 

その会談の当事者のひとり、高知大学名誉教授で高知総合リハビリテーション病院院長の小川恭弘医師は語る。

 

「アフリカ医療連盟会長を務めるケニアのタッカー医師と長時間話し合いました。タッカー医師は私が’06年に開発した、がんの増感放射線療法『コータック』治療を、アフリカ全土に導入したいというんです。日本の医療技術を共有したいということで、価格が安く安全性の高いコータックが注目されたんです」

 

コータック治療は、乳がんや臓器や骨にできる固形がんの放射線治療を行う際に、オキシドールとヒアルロン酸の混合液をがんに注射するもの。放射線の効き目を飛躍的に増大させる効果がある。がん治療薬というと、ノーベル賞受賞で有名になった「オプジーボ」など「費用が1回数千万円もする」という高価なイメージがあるが、コータックの治療費は、1回わずか500円ほど。

 

「開発以来、この治療法での症例は、全国で個々に手掛ける医師と私の担当分を合わせて1千例を超えており、直径15センチの乳がんを消失させた例や、末期の直腸がんを治した例もあります。しかし現在まで日本では、治療費(薬価)が“安すぎ”て、製薬会社が開発に二の足を踏んでいたため、コータックは保険適用がされていません。いますぐにこの治療を必要とする患者さんが、治療を受けにくい状況が続いていたんです」

 

そこで小川医師と株式会社KORTUCは海外での認証を目指し、イギリス・ロイヤル・マーズデン病院では治験が行われ、効果や安全性の確認作業が繰り返されてきた。8月27日にはイギリスで、その治験フェーズ1の好結果が発表されたばかりで、今年中にはフェーズ2が開始、3年後の22年に日本で認可、保険適用を見据えていたところであった。

 

そこへきて、今回のアフリカからのリクエストは「予期せぬものだった」というが……。

 

「ケニアは治験が行われているイギリスと歴史的にも関係が深いため、コータックの情報も手に入る状況だったそうです。アフリカでも、がん患者は多く、女性の乳がんが多発しており、関心が非常に高かった。ケニアは、人口4千万人ほどのところ、医師の数は1万人しかおらず、明らかな医師不足です。首都・ナイロビにこそ、放射線治療装置を持つ大規模な基幹病院はあっても全国的に医療水準は低めで、検診の体制もでき上がっていません。がんは手術できない状態で発見されることが多いそうです。すると、通常の放射線治療では間に合わない。そこで、コータックのような安価で安全な薬がぜひ必要だとおっしゃいました」

 

来日していたスタッフのひとりは、母親が進行性の乳がんで、「すでにがんがコントロールできなくなってしまったのです」と涙を浮かべて小川医師に訴えたそうだ。

 

「私は、そのお母さんが近くにいれば、すぐにでも治療を施したい思いでした……」

 

つねに「目の前の患者さんの命を救う」ために臨床にこだわってきた小川医師。

 

「ケニアでは、日本やアメリカなどの先進国より認可されやすいため、私たちが行ってきた臨床データ約1千例と、イギリスでのフェーズ1の結果を国に提出すれば、それだけで承認を得られそうだというんです」

 

コータックの認可と保険適用への道は、日本でもイギリスでもなく、アフリカのケニアから実現しそうだ。コータックを世界に広めて治療実績を作り、ゆくゆくは日本でも、患者さんがコータック治療を保険適用で受けられる環境を作るという目標が、また一歩近づいた。

 

著書『免疫療法を超えるがん治療革命 増感放射線療法コータックの威力』(光文社)のなかで《私が診ることのないであろう、あまたのがん患者さんが、日本中で、いや世界中の放射線科医の手によって、このコータックで完治される日が来てほしい》と切望していた小川医師。最後に力強くこう語った。

 

「『コータック認可』という私の念願はまず、ケニアで叶うことになりそうです。これは国際貢献でも意義深いこと。タッカー医師はアフリカ全体で医療活動を行なっていますから、アフリカ全土でコータックは飛躍的に普及してほしい」

 

 

『免疫療法を超えるがん治療革命』

著者:小川恭弘(高知大学名誉教授)
価格:1,500円+税
出版:光文社
https://www.amazon.co.jp/dp/4334951007/

 

小川恭弘先生が研究を重ね、実績を積んできた増感放射線療法コータックを紹介。「コロンブスの卵」的な発想が生まれたいきさつや、コータックで命を救われた患者さんの声が満載。患者さん本位の治療を目指してきた小川先生の集大成的な書。

【関連画像】

関連カテゴリー: