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平均寿命が延びたことで、高齢になってからがんと診断される人が増えている。そんなとき、本人や家族が悩むのが、場合によっては、命を縮める可能性のある手術を選択するかどうか。その分岐点を専門家に聞いたーー。

 

がんは加齢とともに増加する病気。平均寿命が延びたことで高齢者の患者数が増え、’14〜’15年にがんと診断された人では、75歳以上が約4割を占めている。

 

福岡大学医学部総合医学研究センター教授で「高齢者のがんを考える会」の発起人でもある田村和夫先生はこう語る。

 

「がんの治療には、3大治療である、手術、抗がん剤療法、放射線治療があります。それぞれに副作用や合併症などのマイナス面を伴い、それが高齢者には高いハードルになるのです。特に体の負担が大きいのが手術。がんを切除できても、ダメージから、体力や免疫力の低下による肺炎で死亡するケースもあります。当然ながら、高齢者のがんの治療によって、その人の本来の寿命を短くしてしまうことは避けなければいけません。さらに副作用で寝たきりになったり認知症になったりしないよう生活の質(QOL)を維持することも重要なのです」

 

東京都在住の佐々木京子さん(56・仮名)はこう語る。

 

「母が79歳のときに、ステージ2の食道がんが見つかり、医師からは『開胸するリスクはあるが、切除すれば転移の心配もない』と手術を勧められました。手術は無事に終わり安心していたのですが、術後の母は以前のように食事がとれなくなり、みるみる痩せ細り、手術から2年後に、肺炎をこじらせてあっけなく亡くなりました。放射線治療だったら、老後の楽しみだった旅行も続けられたかもしれない……。本当に手術してよかったのか、今でも自問を繰り返しています」

 

消化器系のがんを手術した場合、後遺症による体重減少や低栄養で、ほかの病気を発症するケースは少なくない。手術したときのメリットとデメリットをしっかり見極めることが必要なのだ。

 

さらに平均寿命も、積極的に手術するかどうかの判断材料になるという。田中先生が語る。

 

「たとえば、現在80歳で平均的な健康状態の人は、あと12年ほど生きられると考えられます。その人が根治の期待できる初期のがんと診断された場合、がんさえ取り除けば、健康状態が戻るわけですから、平均余命から考えて、積極的に根治を目指すべきです」

 

がんは部位ごとに違う病気といっても過言ではない。さらに進行スピードも異なる。

 

特に進行が遅い前立腺がんが見つかった父親がいる静岡県に住む主婦、望月佳苗さん(60・仮名)はこう語る。

 

「父に前立腺がんが見つかったのは10年前、78歳のときでした。最初は、医師の勧めもあり手術をするつもりでしたが、セカンドオピニオンを聞いたところ手術後に尿漏れなどのトラブルや、がんが取り切れない場合、ホルモン療法が必要で、むくみや血管が詰まるなど副作用の可能性があることを聞き、父と相談して最小限の放射線治療だけにすることを選びました。卒寿を控えている父は、10年たっても元気です。このまま前立腺がんが悪化する前に、天寿をまっとうするのではないでしょうか」

 

東京大学医学部附属病院放射線治療部門長の中川恵一先生が語る。

 

「高齢者のがん治療は、体の負担の大きい手術よりも、放射線治療が中心になります。放射線治療では治らず、手術が必要なのは胃がんや大腸がん、子宮体がんなどです。早期の胃がんや大腸がんは、身体的なダメージの少ない内視鏡・腹腔鏡などで腫瘍の切除ができるため、高齢者でも耐えることができます。しかし、進行したがんで胃や大腸の全摘となると体の負担が増え、術後に体重減少や筋力低下を招き寿命を縮めてしまうことがあるので慎重な判断が必要です。子宮体がんの全摘手術も、体へのダメージが大きいので、80歳を超えて健康状態の悪い方は、慎重に考える必要があります」

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