時期、規模ともに予想外の異常気象が連発。10月25日にも記録的豪雨により、千葉県や福島県などの河川が氾濫。自分の町を流れる川が、うねりを上げて暴れる可能性は、全国的に高まっているーー。
10月12日から13日にかけて、東日本を襲った台風19号。豪雨に見舞われた河川が氾濫したことによる洪水被害や、土砂災害が引き起こされ、死者88人、行方不明者7人を出す未曾有の大災害となった。また、家屋の全壊、半壊、床上浸水などの建物被害は、7万5,891軒にも及び、生活再建までの道のりはまだまだ遠い状況にある。
今回の台風被害の特徴は、記録的な雨量による河川の氾濫が広範囲で起きたことだった。とくに被害が大きかった長野県の千曲川や福島県の阿武隈川など、国土交通省が管理する河川(一級河川)は、堤防決壊が12カ所。
さらに、利根川水系である栃木県の秋山川や荒川水系である埼玉県の都幾川など、県が管理する河川での堤防決壊は128カ所。合わせて74の河川で、堤防決壊が140カ所も起こる大水害となった。
「日本列島の中心には、山脈が横たわっていて、山頂から海までの距離はわずか。そのため、世界に類を見ないほどの数の急流河川が存在しているうえに、それらの川は広範囲に蛇行して流れています。河川流域や河口周辺には、河川が運んだ砂礫や、泥流で形成された平野が広がっており、地盤はもとより軟弱。さらに水はけの悪い三角州や扇状地といった土地も多いので、日本は河川の氾濫によって水害が起きやすい地形なのです」
こう話すのは、さまざまな災害データを基に、地震、津波、洪水などのリスク分析を行う、災害危険コンサルタントの堀越謙一さん。“スーパー豪雨”が続々来襲する異常事態が起きている昨今、今後も広域で長時間の雨が降るようなことがあれば「どこにいても洪水の危険性がある」と警鐘を鳴らす。
そこで、今後とくに警戒すべき、「氾濫危険河川」ならびに「水害危険エリア」を堀越さんに挙げてもらった。
「選出方法は、まず形状、高低差、勾配、支川の数などの特徴を比較し、分析、既存の堤防も含め、越水、決壊の可能性がある河川をピックアップしました。これらを国土交通省のハザードマップと照らし合わせ、氾濫した場合、広域的に浸水被害があるエリアを絞り込んでいます」
【大阪府 淀川】危険地域=大阪市(淀川区、西淀川区、福島区、此花区など)、兵庫県(尼崎市、西宮市周辺)
「もともと大阪平野は河川の氾濫により形成された軟弱な地盤。また、地盤沈下も問題となっており、淀川区や西淀川区、福島区、此花区といった大阪市を中心に、尼崎市や西宮市まで海抜ゼロ地帯が広範囲に及んでいます。淀川は瀬戸内海に流れる河川の中で流域面積が最も広く、淀川水系全体の支川数は965本と日本一多い。河川が網の目のように張り巡らされていて、支川の合流地点が多いことから、淀川流域は常に水害の危険性にさらされています」(堀越さん・以下同)
【島根県 斐伊川】危険地域=出雲市周辺
「もともと出雲平野は、斐伊川上流域の多量の土砂が流入して形成された地層で、“天井川” (砂礫が堆積し、周囲の土地より川床が高くなった河川)となっている斐伊川よりも低い土地に広がっています。また、斐伊川が流れ込んでいる宍道湖は日本海との水位差がほとんどなく、いったん増水してしまうと水はけの悪い下流域である出雲市、斐川町は氾濫の被害を真っ向から受けてしまいます。そこから出雲平野の広域にわたり、浸水が引き起こされる可能性も見逃せません」
【広島県 太田川】危険地域=広島市周辺
「太田川は中国山地に発し、多くの支川と合流しながら山間部から広島平野に至ります。下流域の平野は、海抜ゼロメートル地帯が広がっているため、氾濫リスクは大いにあります。さらに上流、中流域は勾配が急であり、かつ蛇行している。堤防が設置されていない区間も残っており、無堤防率は15.7%と、決して低い数値ではありません。とくに三篠川との合流地点は氾濫、堤防決壊の可能性が高く、そうなると広島市内が浸水被害を受けてしまいます」※無堤防率=無堤防区間の長さ÷堤防必要区間の長さ×100(%)
【愛媛県 肱川】危険地域=大洲市周辺
「愛媛県の南予地方を流れる肱川水系の本川であるこの川には、474本という非常に多い支川が流れ込んでいます。東大洲地区には矢落川への合流点があり、上流側で支川が逆流し、堤防の決壊を引き起こす『バックウォーター現象』が発生しやすい地形となっています。さらに柚木地区は、暫定堤防区間(堤防の低い区間)となっており、嵩富川が合流しているために、これもバックウォーターによる被害、ならびに内水氾濫(下水道などの排水が追い付かず、雨水があふれること)が想定されます」
【福岡県、佐賀県 筑後川】危険地域=久留米市、鳥栖市周辺
「九州地方最大の河川として知られ、最終的に筑後川に合流する支川の数は239に上り、水路が網の目のように張り巡らされています。そのため、降雨が一気に集中した場合、既存堤防が決壊する危険性が非常に高い。とくに危険なのは、宝満川との合流地点。豪雨時に宝満川の水流が筑後川に妨げられ、行き場をなくしてしまうことで、合流地点より上流部分の久留米市小森野地区、佐賀県鳥栖市高田町、安楽寺町などの浸水被害が考えられます」
浸水、洪水などの被害を受ける危険性のあるエリアの多くは、本川と支川の“合流”。
「山間部を下ってくる河川には無数の支川が存在し、至る所で本川に合流。その流路は、まるで網目のように張り巡らされています。本川と支川、どちらかが豪雨により増水してしまうと、もういっぽうの水は行き場を失い、氾濫してしまうのです」
とくに、多くの支川を集める本川が氾濫、決壊した場合、予想をはるかに超える激流が周辺地域をのみ込む危険性が高い。ひとたび河川が氾濫したら、あっという間に身動きが取れなくなる。“自分の身は自分で守る”という意識を日ごろから強く持っておこう。