「相続で争うのは、お金持ちだけだと思っていませんか。相続トラブルのうち、およそ半数は1,000万円以下の遺産を巡るものだといわれています。そして、親族同士がもめる“争族”は、他人同士の争いよりも激しくなることも多いんです」
そう語るのは、これまで約3,600もの家庭の相談を受けてきた遺言・相続の専門家の江幡吉昭さん。銀行勤務時代に顧客の相続争いを経験したことから専門家の必要性を痛感。遺言・遺産問題の総合サイト「遺言相続.com」を運営している。
「司法統計のデータでも、遺産の分割を巡る争いは、平成20〜27年の7年で23%も増加しています。うちのきょうだいは仲がよいので大丈夫と思っている家族ほど、争いに発展することも多いのです」(以下、「」内は江幡さん)
それまで問題なくやってきた親族が、遺産相続をきっかけに“争族”になることは多いという。しかも、意外な理由で……。江幡さんが“争族”の実例を教えてくれた。
【争族1】父と同居する姉に財産を使い込まれた
姉(55)の家族と暮らしていた父が83歳で亡くなった。公務員として定年まで勤めた父。数千万円の退職金をもらい、十分な年金も受給していたので、離れて暮らす素子さん(仮名・53)は、それなりの遺産がもらえると期待したが……。
「まったく父の遺産はありませんでした。同居していた姉家族が使い込んでいたんです。体が弱ってくるにつれて、親は同居する家族にキャッシュカードを渡して『○万円おろしてきて』となり、やがて金銭の管理を一任するようになるものです。実際にこの姉は、ちょくちょくお金を引き出していたんですが、『私は介護の負担をしている』との自負もあり、使い込みも正当化。素子さんは、父の通帳を見せるように迫り、弁護士を立てて争うことになりました。私はよくお客さんに、『親の財産が心配なら、親のそばに住みなさい』と言います。相続において、そばに住んだり、同居している家族に有利に運ぶことが多いのです」
【争族2】逆恨みする長男が遺言に不服で弁護士を
90歳で亡くなった花子さん(仮名)には2人の息子がいた。長男(68)は地元の高校を卒業した後、地元企業に勤め、現在は年金暮らし。幼少期から成績優秀だった弟(63)は一流大学で、海外赴任経験もあるエリートサラリーマン。
自分の勉強不足を棚に上げて、「弟と違い、大学に行かせてもらえず、収入に大きな差がついた」というのが長男の口癖だった。
遺言を残さなかった父の死去時は“わがまま”を通し、多めに財産を相続した長男。そんな経緯もあり、花子さんは「長男に4分の1、次男に4分の3の財産を相続させる」という遺言書を書いた。
「もちろん、法的に完璧な遺言書です。書いたときの花子さんの判断能力もしっかりしており、内容が覆る可能性はほとんどない。しかし、長男は次男を“逆恨み”。母の遺言に不服を唱え弁護士を立て、遺産分割調停の争いに発展しました。たとえ、遺言書を残しても、エキセントリックな人には話が通じないものなのです」
“争族”が始まるタイミングは“四十九日”が多いという。葬儀や死亡後の手続きが落ち着いて、親族全員が集う初めてのタイミングだからだ。
「“争族”にならないための、いちばんの方法は遺された家族の“話し合う余地”をなくすこと。つまり、遺言書の作成に勝るものはありません」
とはいえ、年末年始の帰省時、親に強引に「遺言を書いて」というのはNG。
「『自分が死ぬのを待っているのか!』と、頑なになってしまうことがあります。まずは、親が話を聞きそうな相手に説得してもらいましょう。父親の場合、妻や長男だったり、友人や弁護士だったりしますが、そういう“キーマン”に説得してもらうほうが、遺言書を書いてもらえる可能性が高くなります」
自分たちは大丈夫。そんな慢心を捨てて、“争族”に備えよう!
「女性自身」2019年12月24日号 掲載