「収束のための1カ月」と安倍首相が語った5月が終わり、ついに、東京を含むすべての都道府県で緊急事態宣言が解除された「新型コロナウイルス」。
5月7日にはエボラ出血熱の治療薬だった「レムデシビル」が新型コロナウイルスの治療薬として国内初の薬事承認を受け、中旬からは医療機関での使用が認められた。また、新型インフルエンザの治療薬として開発された「アビガン」も承認こそ遅れているものの、その存在は早くから注目を集めており、すでに国内でも3,000例近く投与されているという。
これらの薬に共通していえることは「ウイルスの増殖を抑え、症状を改善する」こと。
5月半ばには抗原検査キットが国内初承認を受け、PCR検査を補完する存在として期待されているが、こうした医療品が続々と承認・使用されるようになっていけば、ウイルスへの向き合い方も、おのずと新しい段階に入っていくことになるだろう。
つまり、今後は、引き続き感染予防には注意を払いながらも、「もしも感染した場合は、重症化や最悪の事態を免れるための対策をとる覚悟」を持つ必要があるのだ。
免疫に詳しい、順天堂大学大学院医学研究科の竹田和由先生は次のように語る。
「ワクチンが開発され、一般化するのはもう少し先のことでしょう。また、一般的にウイルスは、人口の大多数であるおよそ7割が感染して免疫を獲得する『集団免疫』ができあがることで収束に向かっていくものですが、この獲得にもまだまだ時間がかかるはず。新型コロナウイルスが世界中でここまで感染が拡大した以上、『自分も感染している、または感染する可能性がある』と考えたうえで、重症化しないよう自衛する工夫が必要といえるでしょう」
現在、働き方や、人とのコミュニケーションの取り方において模索されているのが「WITH コロナ」という考え方。ウイルスの根絶を目指すのではなく、共に生きることを前提とするものだ。
これは「健康の維持」においても同じで、新型コロナウイルスと“上手につきあう”ことにも目を向けなければならない段階に移りつつあるといえるだろう。
そのためのポイントが「肺機能」。新型コロナウイルスによって脳梗塞など、血管全体に影響を及ぼす病気の発症も懸念されているが、その代表的な症状は「肺炎」だ。
これまで30年以上呼吸器の診療にあたってきた日本赤十字社医療センター呼吸器内科医の生島壮一郎先生は、「肺炎の重症化を防ぐためには、肺の予備力を保つことが重要」と語る。
「じつは、健康なときの日常生活で使われているのは肺のごく一部。ふだん肺の上部は血流が少なくほとんど休んでいる状態なのですが、激しい運動をしたときや、発熱により体内の酸素が足りなくなった際に、その力が必要になります。これが『肺の予備力』です。しかし、肺がんで肺の一部を切除した人や、喫煙によってCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などの既往症がある人はこの予備力が低下。肺炎になりやすく、かつ、重症化しやすくなってしまうのです」
そこで、日ごろから肺を守り肺の予備力を保っておくことが、一般的な肺炎と同様、新型コロナウイルス肺炎の予防においても重要であると生島先生は続ける。そのうえで欠かせないのが「気道クリアランスの維持」だ。
「気道クリアランスとは、大気中に無数に存在する細菌やカビ、ウイルスを排除するべく体に備わっている防御機構のひとつです。のどの奥にある気管支の内側の粘膜には細かい線毛がびっしりと生えていて、異物が入ってくると上へ上へと動いて、その異物を押し出そうとしてくれます。その表面には川のように粘液が流れているので、これが異物を絡めとり、排除してくれるのです」
そもそも肺炎とは文字どおり、細菌やウイルス感染による炎症が、気道・気管支を越えて肺の肺胞に及んだ状態を指す。
「気道は『空気の通り道』と書くように、人体にとっては大気と通じる『外界』との接点とも考えられます。そういう意味では、毛細血管がある『肺胞』から先が“体内”である、という捉え方もできるわけです。そうすると、肺胞のすぐ手前で機能する気道クリアランスは、体を自宅にたとえたときに『玄関』あるいは『門扉』といえる存在かもしれません。ここで悪者を追い払わないと、侵入されて、家中を荒らされてしまう。そんな場所といえるでしょう」
肺は気道クリアランスを中心とした一連のチームワークによって守られているが、この気道クリアランスも免疫力同様、加齢により機能が低下する。
「線毛自体の働きが鈍くなるほか、粘液の流れが悪くなったり、乾燥する可能性が考えられます。さらに、高齢になれば筋力も低下するため、せっかく異物を粘液で塊(痰)にしても、気管支の筋肉(膜様部)や呼吸筋、喉頭筋の働きが弱いために外に吐き出すことができず、喉の辺りにとどまってしまうことも。年齢を重ねるほど、肺の予備力と気道クリアランスを保つ生活を心がけましょう」
「女性自身」2020年6月16日号 掲載