新型コロナウイルスの収束が見えないなか、これまでになく「死」を身近に感じ、「相続」を考えた人もいるのではないだろうか。
相続法は’18年、約40年ぶりに大きく改正され、手書きの「自筆証書遺言」の法務局保管制度が、’20年7月から始まった。さらに’21年度以降には、法務局に保管された自筆証書遺言の遺言者が亡くなったときに、生前指定した人に連絡する制度が本格的に始まる予定だ。
このように遺言書に関する制度が整備され、そのハードルは下がっているが、それでも、まだ多くの人たちにとって遺言は「うちには関係ない」存在だろう。
だが、弁護士の竹内亮さんはこう指摘する。
「遺言書がないと、遺族が集まり、財産分けについて話し合わねばなりません。その話し合いこそが、大変なのです」
遺言書があれば話し合う必要もなく、遺言書どおりに相続すればよい。残された家族がもめる機会も、大幅に減るという。
「特にお金持ちでもない、普通の家庭に、複雑な遺言書は必要ありません。A4用紙1枚に手書きでつくる『シンプル遺言』で十分です」(竹内さん・以下同)
残された家族がもめないための遺言書づくりを、教えてもらおう。
【ケース】仲よしのお嫁さんにも遺産を分けてあげたい
光文恵美(55歳)の夫はすでに他界し、恵美は長男夫婦と2世帯住宅で暮らしている。
夫の存命中から、恵美と長男の嫁であるG子(32歳)はとても仲がよかった。G子は、夫が病いに倒れたときも恵美と交代で看病してくれたし、夫の葬儀でも恵美を心身ともに支えてくれた。恵美は「G子がいてくれてよかった」と、心から感謝している。
とはいえ、G子は長男の嫁だから、法定相続人ではない。このままだとあんなによくしてくれたG子に何も残してやれない。恵美は、なんとかG子に財産を残す方法はないものかと思案している。
実は、民法改正によってお嫁さんなどにも「特別寄与料」が認められ、財産を一部受け取れる制度ができた。
「とはいえ、お金に換算できない『支え』のようなものだと、特別寄与料が認められるのはむずかしいと思います」
たとえ、特別寄与料が認められるとしても、遺言書がなければ、恵美の死後、財産を分ける話し合いの場で、G子は「私にも財産が欲しい」と主張しなければならない。恵美の長男でG子の夫であるF輔が相続財産を受け取るのに、さらにG子個人にも遺産が欲しいとは、なかなか言い出せないだろう。
「こういうときに、シンプル遺言が有効です。遺言書にG子にいくらか財産を分けると書けば、G子さんが主張しなくても財産を受け取ることができます」
その際、法定相続人ではないG子には「遺贈する」と書く。注意しよう。
【遺言書の例(自分で書く)】主な財産データ:自宅(土地・建物)1,500万円、預貯金3,500万円
遺言書
1 東京都○○区××1-2-3の自宅の土地建物を長男のF輔に相続させる。
2 預金のうち300万円を長男F輔の妻G子に遺贈する。
3 それ以上の預金はすべて長女のH美に相続させる。
4 以上に書いたもの以外のすべての財産を長女H美に相続させる。
2020年10月13日
東京都○○区××1-2-3
光文恵美(印)
それぞれの項目を書き終えたら、書いた日付、書いた人の住所、氏名、そして押印を忘れずに。
「子どもたちに、恵美さんの思いをよく話しておきましょう。何も言わずにお嫁さんに遺贈すると、不信感を招く恐れがあります」
後に残る家族への贈り物として、シンプル遺言を書いてみよう。
「女性自身」2020年10月27日号 掲載