「安静時に花を見ると副交感神経が優位になることから、『花には癒しの効果がある』と言われていました。今年6月に発表した研究では、さらに心理的ストレスによって上昇した血圧やホルモンを下げる効果が実証されました」
農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)上級研究員の望月寛子先生はこう話す。これまでに、自然に囲まれた環境での血圧変化の研究はあったが、国内外で花による血圧降下やストレスホルモンの減少を実証した研究はなかった。望月先生はそこに着目し、10年ほど前から筑波大学と共同で花を絡めた研究を開始したという。つまり、望月先生たちの研究は世界で初めて「花の画像を眺めるだけで心身のストレスを改善させる効果」を証明したことになる。
研究チームが行った実験は、被験者にヘビや交通事故など、人が不快に感じる画像をモニターで6秒間見せて心理的ストレスをかけた後、「イス」「青空」「花」のいずれかの画像をランダムに6秒間見せ、血圧の変化と情動の評価(心のストレス)を測るというもの。ちなみに花の画像は「一般的に誰もが共通してイメージする白くて丸い花びらのもの」を選択した。
「すると、血圧の変化は、イスの画像の後では平均で2.4%、青空の後では2.2%に対し、花の画像の後は3.4%と有意な減少がみられました」(望月先生・以下同)
望月先生は、血圧を下げるには淡い、落ち着いたトーンの花のほうが適していると推測する。
「例えば真っ赤なバラ100本の画像では喚起度が高く、気分を盛り上げてしまうかもしれません。すると血圧降下には作用しない可能性もあります」
研究では誰が見ても花だとわかる画像を使ったが、季節や気温、天候、その人の好みなどによって花の画像が変わることで、花がもたらす効果をさらに引き出せる可能性もあるそうだ。
「花は、人のストレスや悲しみをやわらげたり、喜びを増やしたり、癒したりといった効果があるようで、この文化は世界中にあって消えるものではないと思います。
その効果には気分を盛り上げたり、心を落ち着かせるだけでなく、場の雰囲気を切り替える、やる気を出させる、といった作用もあるように思っています。今後は、より日常生活の中で活用いただけるような研究データを出していきたいと思っています」
コロナ禍で、なにかとイライラしてしまいがちだったり、例年とは違った体の不調を訴える人も多い。花の写真がもたらす健康への効果を上手に活用したい。