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「誰もが無意識のうちに行っている『飲みこむ』という動作。若いときはできて当たり前ですが、加齢とともに『飲みこむ力』が弱くなると、生命に関わる重大な疾患を引き起こすことがあります。食事ができないほどに衰えると、完全回復はほとんど望めません。気づいたときは手遅れということもあります」

 

こう話すのは「嚥下トレーニング協会」代表で、耳鼻咽喉科専門医の浦長瀬昌宏先生だ。著書『のどを鍛えて誤嚥性肺炎を防ぐ! 嚥下トレーニング』(メイツ出版)では、最新の知見に基づき、飲みこみ力の鍛え方を解説している。

 

飲みこみ力とは、食べ物や飲み物をのどから食道に送り込む能力のこと。医学用語で「嚥下機能」と呼ばれるこの能力は、食べる動作の中でもっとも重要だという。

 

「口の中にものを入れること、咀嚼して食べ物を飲みこみやすいように整えることは、誰かに手伝ってもらえますが、飲みこむことは本人にしかできないからです。飲みこめなければ、食べることはできません」

 

さらに問題になるのが、異物が気管に流れ込んで起こる誤嚥性肺炎だ。誤嚥性肺炎は現在、日本で急速に増えている病気で、年間約4万人の死因となっている。高齢化で飲みこみ力が弱くなった人が増えたことが一因だ。

 

飲みこめなくなると、鼻から入れたチューブや胃ろうから栄養補給するほかなく、食の楽しみが奪われる。

 

厄介なのは、老化によって嚥下機能が低下し誤嚥性肺炎にかかると、体の状態が一気に悪化し回復は困難になること。誤嚥性肺炎で入院すると、絶食が強いられ、栄養不足から運動機能や認知機能がどんどん低下していく。そのため、退院しても、介助なしの生活を送ることが難しくなる。

 

また、歯磨きがしっかりとできず、口の中が不衛生になり、免疫力の低下も重なって、さらに誤嚥性肺炎にかかりやすくなる。その結果、肺炎を繰り返してしまい、健常な状態に戻らないまま、死を迎えることも多いのだ。

 

「飲みこみ力の低下によって、高齢者の窒息事故も増えています。窒息とは、大きな異物が気管に入り、呼吸ができなくなること。毎年、正月に餅が原因の窒息死が報道されますが、1年を通して窒息事故は起きています。’17年は9,000人以上が窒息を原因として死亡しており、その数は交通事故による死亡者数の2倍近くにのぼります」

 

「女性自身」2021年4月6日号 掲載

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