「私はこれまで30年間で、胎児から高齢者まで、1万人以上の脳のMRI(磁気共鳴画像法)で撮影した脳画像の診断を行ってきました。そこでわかってきたのは、人の脳は100歳になっても、その人の心がけ次第でどんどん成長し続けるということなんです」
こう話すのは、脳内科医の加藤俊徳先生(加藤プラチナクリニック院長)。最近、物忘れが多くなり、人の名前が思い出せなくなったと自覚している人には、驚きの言葉ではないだろうか。
「たしかに脳の成長は40代でピークを迎えますが、その後の脳の健康状態も、日々の行いによって衰えを防ぐことができるのです」
加藤先生によれば、脳の健康を保つポイントは三つある。
「一つは脳を刺激してあげること。ふだんからいろいろなことに興味を持ち、つねに脳を活性化させるよう心がけてください。次に睡眠と適度な運動。脳に十分な酸素を供給することも大切です。そして最後にもう一つ欠かせないのが、質のよい食事。なぜなら脳と食事は密接につながっていて、認知症を遠ざけることができるからです」
脳の活性化の“切り札”が、栄養素「プラズマローゲン」だ。
「聞きなれない名前かもしれませんが、いま認知症に効果があることでいちばん注目されているのがプラズマローゲンという栄養素です」
加藤先生によれば、米国の研究では、アルツハイマー病の患者の脳にこの栄養素が減少していることが指摘され、九州大学の報告でも、これを摂取すると認知機能が改善することが明らかになっているという。
「プラズマローゲンにはコリン型、セレン型、エタノールアミン型の3種類がありますが、脳に多く含まれるのはエタノールアミン型。これは動物性食品にしか含まれていません」
そのなかで、とくに加藤先生が“三大プラズマローゲン食材”としてすすめているのが、ホタテ、タコ、サケだ。
「三つの食材に共通するのは、EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)といった、脳のために有用なほかの栄養素も多く含まれていることです」
さらに加藤先生によれば、この三大プラズマローゲン食材を効果的に取るうえで、大切な「食の心得」があるという。
【1】「かむ」「嗅ぐ」
「かむという行為は脳を活性化させます。大切なのは同じ歯でかむのではなく、左右や前後など、使う歯を意識的に変えることで、脳の頭頂葉が活性化し、脳の空間認知能力が高まります」
料理の匂いを嗅ぐという行為も重要だ。
「認知症になると、香りを認識する能力が弱まってしまうことが知られています。食事の際、食べながら、匂いも楽しむようにすることで、脳の働きを活性化することができます」
【2】意識的に両手を使って食べる
「ふだんは利き手に箸を持って食べるだけかと思いますが、脳のためには、食事中、意識して両手を使うことをおすすめします」
たまには利き手でないほうの手で箸を使ってみたり、ナイフとフォークを同時に使って食べたりすることで脳が刺激され、認知症予防になるという。
【3】食事は「脳トレ」である
「食感や香りを楽しんだり、食べる順番を考えたりするなど、食事というのは、じつに脳をフル回転させている一日三回の“脳トレ”なんです。それを意識するだけで、脳は徐々に若返ってきますよ」
最後に加藤先生から、こんなアドバイスも。
「どんな人にも好き嫌いはあるもの。いくら脳に効くからといって、嫌いなものを無理に食べると脳がストレスを抱え、逆効果になってしまいます。じつは私も肉類が苦手なのですが、新潟出身ということもあって、サケは子どものころから慣れ親しんだ大好きな食材です。みなさんもまずは三大プラズマローゲン食材のなかから、とくに自分が好きなものを選んで、それを優先的に食べてみてください。より効果的に脳を老化から遠ざけてくれると思います」
「女性自身」2021年4月20日号 掲載