「夕食直後、突然みぞおちから右上腹部に激痛が走りました。そしてすぐに高熱と嘔吐が襲いかかり、“これは尋常ではない”と恐怖を感じたので救急車を呼びました。病院で検査したところ、医師から“結石が胆のうの入口に詰まった嵌頓状態で、その部分がすでに壊死している”―――と。
腹腔鏡下手術によって、胆のうを全摘出しました。術後、腹部の痛みは治まりましたが、炎症がひどかったため9日間入院。二度とあんな激痛は経験したくないです」
今年5月、急性胆のう炎を発症して、緊急手術をした東京都の50代主婦A子さん。
ふだんは痛みがないため気づきにくいが、ある日突然耐えがたい痛みに襲われる。このような胆石症の患者が、50代以降になると急増するという。
「胆石症」とは、胆のう内や胆管内に結石が形成される“胆のう結石症”と“胆管結石症”の総称のことだ。
肝臓で毎日600ml以上作られる胆汁(主に脂肪分の消化を助ける液)は、一時的に胆のうに貯留され、胆道を通って十二指腸に排出される。この胆汁中のコレステロールやビリルビン(寿命を終えた赤血球が分解される際に生じる色素)などが結晶化し、結石となって胆石症を招くのだ。
厚生労働省の令和2年「患者調査」によると、胆石症総患者数は11万人超(胆のう炎患者数含む)。年代別では、50代以上の患者が全体の9割以上で、男性が4万7千人、女性が5万6千人いる。
年間の総患者数約11万人のうち、50代以上の女性が占める割合は約6割。だが、胆石症の60~80%は無症状のため、人間ドックなどの健診で、胆石が偶然発見されるケースも多く、実際の患者数は1千万人ほどいるとも……。
仮に胆石症の患者が潜在的に1000万人いる場合、この年齢分布が同じだとすると、50代以上の女性の約550万人、つまり6人に1人が胆石症だということになる。
「胆石症は加齢とともに増える病気です。とくに女性や高齢者、肥満の人などに発症する傾向があります。主な症状は、右上腹部や背中の痛みで、食後に起こりやすい。無症状の場合は、経過観察でいいですが、症状がある場合は、詳しく検査し、早期の治療が必要です」
こう語るのは、日本消化器病学会認定消化器専門医で、胆石症に詳しい「中島クリニック」の中島敏雄院長だ。
冒頭のA子さんは、30代のときに長女を出産。その後、食事の後に胃痛がたびたび起こるので、詳しく検査をしたところ胆石症であることが判明した。
だが、それほど痛みもなく、手術するほど重症ではなかったため、薬を飲んでやり過ごしていたという。それから20年後、急性胆のう炎を発症した。
無症状の胆石症の人でも、10%程度の人が将来的に発作を起こす可能性があるといわれている。
「胆のう内にできた胆石が大きくなって、胆のうの出口にはまり込むと、胆汁のうっ滞が続いて、右上腹部に刺すような激しい痛み(発作)、吐き気、背中や肩への放散痛が起きます。
さらに、結石が胆管に移動して胆管内で詰まると、黄疸、急性胆管炎、胆管破裂、膵炎などの合併症を引き起こす可能性があります。早期に治療しないと死にいたることも。急性閉塞性化膿性胆管炎の死亡率は20%ともいわれ、危険な病気なのです」(中島院長、以下同)
軽度の胆石症だと、超音波検査(エコー検査)や磁気共鳴画像装置(MRI)などで詳しく検査をしないと、結石が見つかりにくい場合があり、診断されるまでに病院をたらい回しにされたという声も。
単なる胃もたれ、胃痛、腹痛だと思い込み、胆石症を疑わずに放置していたら、いつ発作が起きても不思議ではない。
ふだんは無症状でも、食後に腹痛を繰り返すような人は、専門の消化器科を受診し、検査をしてもらうことだ。