シロアリ被害の建物(写真:セーラム/PIXTA) 画像を見る

「このシロアリには、従来の防除方法がまったく通用しません。現状では完全に有効な防蟻方法(予防法)もなく、そのうえ、いったん家を食い荒らされてしまったら……現在の技術では完全に駆除することも難しい。ゆえに“脅威のシロアリ”なんです」

 

こう話す男性が手にした透明のプラスチックケースには、カラカラに乾いた木片が納められていた。そして、その木片に空いた無数の穴の中には、蠢く虫の姿があった。

 

この男性は、シロアリの予防や駆除を数多く手掛ける「テオリアハウスクリニック」の田中勇史さん。「日本しろあり対策協会」の防除技術委員も務め、過去には皇居内施設の蟻害調査を行うなど、シロアリ対策の専門家だ。そんな彼が「脅威」と話すのが近年、日本で猛威を振るっている外来種・アメリカカンザイシロアリだ。

 

「アメリカカンザイシロアリは最近、日本で被害が数多く報告されている外来種です。その名のとおり、もともとは北アメリカの西部が主な生息域で、現在もカリフォルニア州などでは甚大な被害が出ています。日本で初めてその存在が確認されたのは1970年代、場所は東京都江戸川区でした。どのように日本に入ってきたのかは不明ですが、おそらくは輸入された木材や家具に潜んでいたのだろうと考えられています。その後、国内でも徐々に被害が拡大。近年、被害件数は増加傾向にあります」

 

在来種のシロアリと、アメリカカンザイシロアリには、いくつか相違点がある。その一つがサイズ。田中さんによれば、アメリカカンザイシロアリは日本のシロアリよりも「ひと回り大きい」という。

 

「日本に昔からいるヤマトシロアリやイエシロアリは最大5〜6ミリですが、アメリカカンザイシロアリは8ミリほど。季節によって羽が生えて羽アリになると1センチほどにもなります」(田中さん、以下同)

 

そして、日本のシロアリとの最大の違いが生息環境。そして、それに伴う家屋への侵入ルートだ。

 

「アメリカカンザイシロアリの“カンザイ”とは“乾材”のこと。含水率10%程度の乾いた木材を好み、食い荒らした木材のなかに巣を作ります。いっぽう、日本にもともと生息しているシロアリは、水分に依存するため湿気の多い木材をエサにする。営巣するのも、湿った土の中です」

 

ヤマトシロアリやイエシロアリは土中=家の床下に巣を作り、そこから家屋の内部に登ってきて木材を侵食する。ゆえに、シロアリ防除業者は従来、床下をチェックして被害確認を行い、床下や土台に殺虫剤など薬剤を使って、未然にシロアリ被害を防ぐなどしてきた。ところが……。

 

「アメリカカンザイシロアリは飛んでくるんです。飛来してきて、オス&メスのつがいで建物外壁に降り立つと、窓や屋根裏の換気口などから家屋内に侵入。天井裏や柱、壁などの木材を侵食し、そこに巣を作るんです。家屋というのは空気の流れを確保することも重要ですから、隙間を完全に埋めてしまうわけにもいかない。空から飛んでくるアメリカカンザイシロアリが侵入路を見つけることは、そう難しいことではないというわけです」

 

この10年ほど、増加しているアメリカカンザイシロアリの被害。なかでも被害が集中している地域がある。

 

「首都圏では神奈川県横浜市、とくに海沿いの地域に多くの被害が報告されていて、横浜市の沿岸部には多くのアメリカカンザイシロアリが生息していると思って間違いない。

 

東京都内で多いのは中野区。また、23区以外では、米軍施設近隣の住宅街に生息していると言われています。

 

全国的には、北海道や東北北部以外のエリアで地方ごと局地的に被害が出ています。アメリカカンザイシロアリは寒さが苦手なため、北海道や東北北部での被害報告はまだありませんが、言い換えればそれ以外の地方なら日本中、どこで被害が出てもおかしくはありません。

 

また、最近の断熱性能が高く、暖房の効いた家屋のなかだけなら、たとえ寒冷地でも生息可能なはずですから、引っ越しなどで持ち込んだ家財のなかに紛れていたら……。温暖化が進むいま、数年後に北海道で被害が報告されたとしても、それは決して驚きではありません」

 

被害が特定の地域に集中する背景には次のような理由があるという。

 

「空から飛んでくるアメリカカンザイシロアリですが、その飛翔能力は決して高くはないんです。かつては線路を跨いでの移動はできないと言われたぐらいです。その後、風に乗るなどして線路や河川を飛び越えてしまうケースも確認されましたが、独力で遠隔地に一気に移動することは考えにくいのです。そのような場合は、住人が家具などに巣食ったアメリカカンザイシロアリごと転居してしまった可能性が高い。基本的には居着いた家から隣家に移るなど特定の地域の中、同じ町内などでアメリカカンザイシロアリはテリトリーを広げていく。住宅が密集した都市部で集中的に被害件数が増えるのは、そのためです」

 

各地のシロアリ被害を調査してきた田中さんは「天井が落ちてしまうほど食い荒らされた家屋も目にしてきた」という。

 

「彼らにとって家屋の木材はエサであると同時に、住処でもあるため、食べ尽くしてしまうということは基本、しません。ある程度、侵食したら、別の木材に移動して営巣するのが一般的です。ですが、ごく稀に、激しく侵食され、木材の内部がスカスカになって建材としての強度を保持できず、天井が落下したり、柱に大きなヒビが入ってしまったりという、ひどいケースも。たいがいの場合、20年近く住人不在で、被害が放置されてきた空き家です。そこに人が暮らしていれば、そこまで侵食されてしまう前に、さすがに気付いて対処できると思います」

 

裏を返せば、いかにして早く、アメリカカンザイシロアリの存在に気付けるかが、被害を最小限に食い止めるカギになる。その方法を田中さんは「糞を見つけること」と話す。

 

「アメリカカンザイシロアリは住処でもある木材の外に、木材をごく小さい砂粒状に固めたような糞を排出します。これは従来の日本のシロアリにはない特徴。それから、アメリカカンザイシロアリは、不要になった羽もすぐ剥ぐようにして落とします。ですから、部屋の隅や壁際、窓枠のところなどに、糞が積み重なっていたり、虫の羽が何枚も落ちていたら、それは付近の木材に巣食っている証です。ただ、多くの人はその知識がないので、糞や羽が落ちているのを目撃しても『これ、なんだろう?』と訝しがる程度で掃除してお終い、としてしまう。結果、被害がより深刻になってしまうというわけです。写真のようなツブツブがバラバラと落ちてくるなど被害が疑われたら、なるべく早く専門業者に診てもらうことをお勧めします」

 

連絡を受けた駆除業者は、目視で被害箇所を確認し、木材にドリルで穴を開けノズルを差し込み、専用の機材を使ってムース状の薬剤を高圧で注入、充填し巣を叩くという。ただ、田中さんは冒頭で「アメリカカンザイシロアリは完全駆除が難しい」とも話していた。それは何故なのか?

 

「日本の在来種のシロアリは、土中の巣に数万匹が生息していますが、それに比べ、アメリカカンザイシロアリが木材の中に作る巣は規模が小さく、1つの巣に生息しているのは多くても数百匹程度なんです。被害が出ている家屋には、その規模の巣があちこちに点々とあるケースがほとんど。ですから、たとえば、ある柱に被害が確認できたとして、その柱に作られた巣を薬剤で叩いたとしても、壁や天井の中に別の巣がないとも限らない。1つの巣を潰しても、ほかの巣が残っていたら、やがてはまた被害が出ることになってしまうのです」

 

アメリカカンザイシロアリの本場・アメリカでは、もっと大胆な手法が取られているという。

 

「アメリカでは家を丸ごとカバーで覆って、そこに有毒なガスを充満させ、家丸ごと燻すようにして駆除します。被害が確認されている地域では、その駆除方法を5年、あるいは10年ごとに行なって、その都度、根絶させるという方法で家を守ります。ただ、このガスは人体にも影響が出るほど強力なもの。隣家との距離がある程度確保できるアメリカの住宅地なら可能だとしても、家屋が密集している日本ではムリ。許可もおりません」

 

先述したように、有効な予防手段もなければ、本場のような強力な手法で根絶もできないとなると、我が国ではこのアメリカカンザイシロアリに、どう対峙すべきなのか。

 

「日本では、アメリカカンザイシロアリの駆除は『被害が確認できたら、逐一、その場所を処置していきましょう』というやり方が現状では一般的で、それが精一杯なんです。一応、被害のあった箇所に隣接する木材はチェックしますが、家のなか、すべての壁や柱の被害を確認するとなると、壁紙を剥がすなど解体工事並みの大事になり、予算も大幅に膨らんでしまいます。また、たとえ数百万円かけて、大工事を施し完全駆除できたとしても、その翌日、また新たなツガイが飛来してくる可能性も決して否定できないのです。そこが、このアメリカカンザイシロアリの恐ろしいところなんです」

 

いずれは“脅威のシロアリ”があなたの家にも……、否、もうすでにお宅の柱、スカスカになってしまっているかもしれませんよ。

 

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出典元:

WEB女性自身

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