それぞれの2年目 #2仮設住宅での孤独な日々:高橋てる子さん(83)
■2013年2月4日 15:50 @石巻市大森地区
石巻市大森地区の仮設住宅に独りで住む高橋てる子さん(83)に、初めてお会いしたのは、コスモスが風に揺られる2011年の10月だった。避難所から仮設住宅へ移住し、まだ、一週間足らず。若者たちが自主運営していた避難所「明友館」での大家族のような生活を懐かしがり、ここでは知り合いも友達もいないと、しきりに寂しがっていた。
高橋さんが心細いのにはもう一つ理由があった。
抽選で振り分けられた大森地区の仮設住宅は、石巻の中心部に住んでいた高橋さんにとっては、全くの見知らぬ土地なのだ。しかも車で30分もかかる内陸部にあり、仮設の近隣には買い物をする場所もない。足が悪いので、バスに乗って中心部にも行けない。当然、ひきこもりになってしまった。
石巻市は、平成大合併により広域な市町村がひとつとなった為、このような弊害が各所で起きた。足腰の悪い独居老人は、なるべく、買い物に行きやすい場所で、元々のコミュニティーの人々と暮らせるという配慮が必要だった。しかし、その余裕がない時期だったのかもしれない。
■1年4ヵ月ぶりに再訪
あれからどうされているだろうか。
いつも気にはしていたがなかなかお会いできなかった。
ようやくお会いできたのは、2013年2月4日。大粒の雪が仮設住宅を覆っていた。
ニコニコとした笑顔が玄関まで迎えにきてくれた。「雪の中、ありがとさんだねぇ」と高橋さん。
前回訪れた時と同様に、室内はキッチリと整理整頓されていた。
コタツのある部屋に通して頂き、さっそく「お茶っこ」タイム。
三陸地方では、たいていのお宅で、「お茶っこ、でもー?」とお茶とお菓子を勧めてくれる。その役割はおばあちゃんであることが多い。
だから、お土産もお友達と「お茶っこ」しやすいように、小分けに包装されているおせんべいやクッキーを持っていった。
ーあれからずいぶんと時間が経ったけど、お友達はできましたか?
「いいや、わたしから、(友達になってもらいに)行くのは、無理なのよぉ。隣組と一緒に(この仮設住宅に)来た人はいいけど、私は石巻から来たから誰もいないの。一人なの。友達作れってばいうけど、できないの」
ー仮設住宅でやっている催しとかに参加してみては?
「隣組の組長さんが、行くべしって誘ってくれるんだども、皆に寄られるのはいいけど、自分から行くのはやんだーって、誤魔化してんの(笑)一歩踏み出せばいいんだも、その一歩ができなんだぁ…」
ー毎日、誰とも話をしないんですか?
「見守り隊(※1)の人たちが、3人ぐらいで組みになって月曜から金曜までやって来るの。『今日はかわりありませんか?』って聞いて歩くのよ。私は最後に家さ、寄らいんって、お茶っこ飲みらいんって、言うの。てる子さんところ来ると落ち着くわぁって言ってくれてね。私、人、寄せるのは好きだからねぇ。」
ー買い物はどうしてるんですか?
「ここさ来た人から買うの。歩かれないもん、年取って。」
ー息子さんは来てくれないんですか?
「息子たちだって、(被災して)生活保護を受けるような状況だからね。私もこうして離れて、迷惑かけねぇようにしてるのさぁ」
ーお孫さんはいらっしゃらないんですか?
「息子と娘にひとりずつ。30になったかな。1年に2回。1年に2回って決まってるの。まんず、来ねぇんだから」
ーもうすぐ2年経ちますけど、今後のことは?
「自分で自分なりに気ぃ確かにもってさ、がんばんなぎゃいげねぇなぁっと、おもってるども、この頃、とっても、そのがんばりがなぐなったね…これでは、ダメだぁって考えなおしてんだっともさ」
■独居老人世帯の現状
明るく何でも話をしてくれた高橋さんだが、まったく希望は見えない。同じような仮設住宅での独居老人世帯は、約2割と言われている。
阪神・淡路大震災では、震災から10年の間に仮設住宅と復興住宅生活者を合わせ560名以上が孤独死と見られる亡くなり方をした。そんな事があってはならない。
復興の未来図を語る事も大切だが、震災弱者たちの救済は最重要課題なのだ。
高橋さんは、認知症にならないように、毎日の出来事をすべて日記に書いているのだという。だからボクの事も全く忘れずにいてくれたのだ。
帰り際、「また寄らんしゃい」、という、高橋さんの手には、1年半前にお送りした写真が握られていた。大切に保管してくれていたようだ。嬉しい。しかし、お別れのときは切ない。
今日は雪だから寒いから…というのに、玄関まで来て、見送りしてくれた。どこか淋しそうに手を振る高橋さん。自分のおばあちゃんのようだ。
また、必ず、会いにきますね、おばあちゃん!
元気に笑顔で別れた。
※1見守り隊…石巻市では、164名の仮設住宅訪問支援員が、仮設住宅入居者の孤立化予防やひきこもり防止のため、仮設住宅の巡回・見守りや入居者の生活相談を行っている。
写真・文:シギー吉田