養親候補者の説明会では、「障害児や疾病のある子が養子になることもある」と、厳しい現実も語られる。 画像を見る

不妊治療の保険適応化が注目される一方で、「特別養子縁組」をテーマにした映画が話題だ。“それでも授からなかった”夫婦の選択肢としても、理解を広めるべき制度といえようーー。

 

「コロナ禍にあっても、実親さんからの相談はあとを絶ちません。この10年を振り返ってみて、実親さんの赤ちゃんが生まれなかった月は一度もないですから」

 

そう語るのは、今年設立10周年を迎えた「特定非営利活動法人NPO Babyぽけっと」の会長を務める岡田卓子さん。特別養子縁組をあっせんする民間団体で、子どもを産んでも育てられない親と、望みながらも子どもを授かれない親との橋渡しを行っている。

 

「特別養子縁組でお子さんを迎えたいという場合、方法は2つ。都道府県が設置する児童相談所に登録するか、うちのような民間事業者に仲介してもらうか。また、その両方に登録することもできます。児童相談所と民間との違いは、子どもの年齢です。当会があっせんするお子さんは、新生児や0歳児がほとんど。それに対し、児童相談所は原則として15歳未満の子どもを対象にしているため、たとえば10歳の養子を受託する場合もあるということです」

 

現在、Babyぽけっとのような養子縁組あっせん事業者(養子縁組あっせん事業許可証があるもの)は、全国に20団体(2020年10月1日現在、厚生労働省調査)。ここ数年は、年間500〜600件前後の縁組が成立しているという。

 

「当会は年間約50件、これまでには約490人のお子さんの縁組を仲介しました。これも、実親さんの産前産後をサポートする母子寮があること、また、特別養子縁組にご理解くださる病院が年々増えつつあることが要因だと思います」

 

この日は、Babyぽけっとが主催する“養親同士の交流会”。仲介するだけに終わらず、成長していく子どもと養親をサポートする目的をになっているが、会場には、特別養子縁組で授かった2人の子どもと参加する夫婦の姿があった。

 

「申し込んでから約2カ月で、該当する子どもがいると知らせがきました。以前、児童相談所に里親登録したときは1年近く音沙汰がなかったので、ずいぶん早いなと。実際に子どもを迎えた瞬間は、感動と、うれしさと、10年以上の不妊治療の記憶がいっぺんに押し寄せてきて……その後は、子どもとの生活が始まってからは、食事をして、お風呂に入って、というなんでもない日常に涙がこぼれます」

 

この夫婦のように、2人目の養子を迎える養親も多いというが……。

 

「上の子が大きくなったとき、身内に同じ境遇の理解者がいたら心強いだろうなあ、と思って。それは、下の子にも同じことです」

 

また、Babyぽけっとでは、子どもが未就学のうちに、生みの親が別にいることを告げる「真実告知」の重要性を説いている。

 

「それを考えると、やはり不安です。きちんと話そうとは決めていますが、子どもたちがどんなふうに受け入れてくれるだろうかと……」(夫48歳、妻47歳の夫婦)

 

公開中の映画『朝が来る』は、特別養子縁組をテーマに、こういった民間事業者の取り組みを紹介している。岡田代表は今作に全面協力しているが、それも、特別養子縁組制度をもっと世間に広めていく必要性を感じているからだ。

 

「実親さんの事情の多くは、非常に劣悪なものです。性暴力など望まない妊娠で悩み抜いた末に産み、かといって育てない決断に病院の対応は冷たく……それでも、子どものことを考えればこそ、特別養子縁組を選択する。彼女たちは決して無責任なわけではなく、勇気ある決断をした親なのです。養親さんには、実親さんの壮絶な闘い、葛藤もすべて知ってもらったうえで、覚悟をもって引き受けてもらいます。特別養子縁組は、親のためではなく、子どもが親を見つけるための制度だからです。日本はこの分野の後進国で、妊婦にいちばん身近な医療現場でさえ、養子縁組を考える妊婦を受け入れないところも多い。私たちはめげずに活動していくしかないけれど、この日本でも、特別養子縁組がもっと世の中に受け入れられて、いつか“特別”の字が取れる日がくることを願っています」

 

「女性自身」2020年11月10日号 掲載

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