障害児キッズモデル「僕たちから目をそむけないで!」華ひらく社長・内木美樹さん
画像を見る イオンモール木更津での「華ひらく」の小さな写真展

 

■障害者雇用に積極的に取り組んでいる企業の広告に、障害児キッズモデルが登場、大評判に

 

キッズモデルの確保に手応えを感じた内木さんは、同時に企業側へのアプローチを始めた。

 

「飛込み営業で、まずは世間的にSDGsに力を入れている会社などに連絡しましたが、ほとんどが『前例がありません』『障害者を利用してお金もうけをしているとのクレームにつながりかねない』というお返事でした。

 

そこで、よし、外堀から埋めようと思うんです。社会のほうから“日本にだって障害のあるキッズモデルがいてもいいよね”というウエーブを作ろうと。その具体策が、写真コンテストでした」

 

このコンテストは、新聞各紙などにも取り上げられ、冒頭のとおり、その後の写真展にもつながっていき、大きな成果を上げた。

 

同時に進んでいたのが、ある広告プロジェクト。その相手企業がチョークや描いても消せる筆記具「キットパス」で知られる日本理化学工業(川崎市)だった。

 

「60年以上前から障害者雇用に取り組み、社員の7割が知的障害者という日本理化学工業さんは、ずっと大ファンで、モデル事業を立ち上げたときに、ぜひお声がけしようと決めていたんです」

 

同社広報部の雫緑さん(42)は、

 

「今年4月、わが社のホームページのお問い合わせ欄に、内木さんの最初のメールが届きました。

 

障害のある方への思い、ご自身のママとしての思いがあふれるほどの長文で、私自身4歳児の母親として大いに共感して、すぐに広告作りが動き出しました」

 

早くも翌5月には、千葉県の鴨川でキットパスの新商品の広告の撮影が行われた。「華ひらく」から出演するのは、ダウン症のすみれちゃん(8)と自閉症と軽度知的障害のあるなぎさちゃん(7)。

 

ほかの広告制作との大きな違いは演技指導などが一切ないこと。現場に立ち会った、なぎさちゃんの母親の武藤綾夏さん(34)は、

 

「内木さんから『お絵描きの好きな子向きの仕事があります』と一斉メールが来て、なぎさにぴったりと思いました。家でも何時間でも描き続ける子なんです。撮影の現場でも、『この大きな窓ガラスに好きに絵を描いていいんだよ』と伝えられたあとは、大人は手出しせずに、のびのび自由にやらせていただけました」

 

完成した広告写真は、商品チラシや展示会パネルに使用され、大評判となった。雫さんは、

 

「現場で、無我夢中でらくがきに没頭する子供たちの笑顔こそ、私たちが伝えたかった商品のコンセプトそのものです。これは、新しい化学反応ができたなと、現場で広告の成功を確信しました」

 

現在、「華ひらく」に登録しているキッズモデルは、0~13歳の38人、契約企業はフォトスタジオやこども食堂など7社。

 

もちろん、この事業のきっかけとなった内木さんの長男の尊くんも、トランポリン施設の広告などに出演している。

 

「いつもは、公園でも『早くやりたい』で順番を待てないのに、トランポリンの撮影では、ルールを守れたんです。ほどよい緊張感があったようです。『あんた、やればできるじゃん』って、思わず声が出てました(笑)」

 

かつては目をそむけていた障害者に、気づけば、自分から話しかけるようになっていた。

 

「今では、尊の障害に感謝しています。キッズモデルの広告や写真を通じて、多くの人にその存在を気にかけてもらえるとうれしい」

 

とはいえ、ほかの業種同様に、コロナ禍もあって、営業の現場はかなり苦戦しているというが、

 

「どんどん減っていく会社の通帳の預金額を見ると、心が折れそうになりますが、そんなときはマザー・テレサの愛にまつわる言葉を思い出して、自分を元気づけます。

 

目標は、各都道府県に男女1人ずつのキッズモデルさん。テレビCMもやりたいし、いつか町のビルボード(屋外広告)にうちのモデルの写真がバーンと掲げられたら、私、泣いちゃうでしょうね」

 

【後編】さまざまな障害のある子供たちのモデル事業を行う「華ひらく」社長・内木美樹さんへつづく

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