■累計の赤字額は2847万円にものぼる
では、具体的にどのくらい年金が下がっていくのだろうか。財政検証では、経済状況に合わせて4つのシナリオが設定されている。
「日本経済が高成長するケースや経済状況が一定程度改善するケースが示されていますが、いずれも楽観的な予想です。長期的な経済成長率を規定する全要素生産性(TFP)上昇率は、前者が1.4%、後者が1.1%で推移していくことを前提としていますが、直近の値は0.6%にすぎません。これまでの経済状況を反映させた『過去30年投影ケース』という2番目に悪いシナリオが現実に即していると思います」(前出・島澤さん)
同シナリオをもとに、現在50歳の夫婦の将来の年金受給額を見てみよう。
現在のモデル世帯夫婦の年金額は月22万6332円。これが年金受給開始年齢である65歳を迎える2039年には月21万6846円に、70歳を迎える2044年には月21万4492円、80歳を迎える2054年には月21万518円となる。2056年に所得代替率は下限の50.4%に達し、以後受給額は微増していく。
2023年の家計調査によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の支出は月に28万2497円だから、65歳時点で6万5651円だった毎月の赤字額は、80歳のときは7万1979円まで拡大することに。
しかし、この金額は実際の不足する額ではない。じつは財政検証で示されているのは、金銭的な価値がわかりやすいように、2024年の物価水準に調整した額。これからの物価上昇分は反映されていない。
そこで、本誌は実際に貰える年金額と、かかる支出額を試算した。
65歳時点の年金額は、物価上昇の影響で月25万2207円まで増える。だが、それ以上に支出額は増え、月に32万3421円。この時点で赤字額は月7万円を超え、年間で85万円になる。
80歳時点で赤字額は月8万5000円ほどになり、年間100万円。65歳からの30年間で累積の赤字額は2847万円にものぼる。