ミュージシャンによる政治的発言――。かつては「音楽に政治を持ち込むな」という論争が起こったこともあったが、今では自由に政治的な意見を発信するミュージシャンは珍しくない。いっぽう、それに対する賛否がSNSやネットニュースのコメント欄などでたびたび巻き起こっている。
そんななか、人気ロックバンド「サカナクション」のボーカル・ギターを務める山口一郎(45)が4月27日に自身のYouTubeチャンネルで生配信を行い、そこで語った見解が話題を呼んでいる。
山口は、「ミュージシャンが政治的なことを発言するのはどういうことなのか。もっと政治的なことを 発言すべきだっていう人もいれば、ミューシャンごときが政治的発言するなとか、いろんな考え方が議論されてるじゃん」と現状を整理しつつ、「1個だけ言うけど、どんなミュージシャンも政治に興味ないことはないよ。だって、みんな同じように生きてんだから」と強調。
いっぽう、「政治的なことに知識があるかどうかは別」と山口。“ミュージシャンなら政治のことを勉強するべき”という意見については、「それはミュージシャンに求めるものがちょっと違いすぎる。評論家じゃないから我々は」とし、こう続けた。
「みんなの気持ちを代弁することがミュージシャンの仕事。今、この現状でたとえば自分が思ってることを言うよ。俺は戦争なんてなくなったらいいなと思うわけよ。でも、どうやったらなくなるかなんてわからない。だって知識もないしさ。自分が持ってる浅い知識で、“こう思うんだよね”みたいに言うのもさ、そんな責任感ないことできないじゃない。危ういじゃん。知識ないからさ。感情論で話せないよ」
同じロックミュージシャンとして、あらゆる場面で反戦や平和を声高に掲げたのが、’09年に亡くなった忌野清志郎さん(享年58)だ。山口は清志郎さんの名前を挙げつつ、「清志郎さんみたいに真っすぐに自分のことを伝えるミュージシャンが今存在したら、多分、清志郎さんがいた時代と、今はSNSでみんなが批評家になってる時代だから、また違った反応があったと思う。だから、どう伝えるというのは難しい。ミュージシャンは特に」とも語った。
その上で、山口は「音楽で伝えることはできるじゃない」と訴える。表現には直接的、抽象的な方法があるとし、「そりゃ歌いたいよ。平和。自分たちが歌って平和になるんだったら、それはやるよ。でも、ちょっと言っただけで、このコメント欄なんてとんでもないことになるわけじゃん。そんな状況で、そんなリスクってちょっと無理じゃない? だから、できる限り抽象的に、音楽の世界で自分が作る歌は“こういう意味がありますよ”って説明せずとも歌にしていくようにしてるんだけどな、と思うけど」と、自身のスタンスを語った。
さらに、山口は政治的なメッセージと、抽象的な歌の世界観について、「政治のことはわからない。みんなと同じ倫理観しか持ってないのよ。“これはダメ”と思う、でも、“じゃあどうしたらいいの”て言われたらわかんないんだよ。言われた時に答えられないから、“ダメ”って言えないじゃん。ただ、感じてることとか、その雰囲気は音楽にできると思ってるんだよね。サカナクションみたいに抽象的に歌うミュージシャンはさ」と説明。いっぽう、「もっと政治的なことを歌えとか、反戦を歌えとかさ、こういう人たちの気持ちはすげぇわかる。そうあるべきだと思う」と述べながら、それを実現することの難しさを以下のように語った。
「でも、それをやってごらん。どうなるか想像つくでしょ。“バカか”って言われんだよ。“何もわかんねぇくせに”って。“ミュージシャンごときが政治的なこと言うな”って言われるのよ。反戦を歌ったとしても、戦争反対の人にも叩かれんだよ。おかしいじゃん。それはリテラシーがあったらわかると思うよ。それじゃあ、どうするかっていうのが、やっぱりこれからのミュージシャンのことだと思う。難しいと思う」
山口といえば’22年にうつ病を発症し、約2年間活動を休止した経験がある。その経験から、「うつ病になって苦しんでる人とか、夜眠れない人とか、不安でどうしようもない人とか、そういう人たちの気持ちはわかるんだよ。俺は。自分もそうだったからさ。今もそうだし。だから、それは音楽にはできるよ。ただ、カウンセリングみたいな歌は作らないよ。こうした方がいい、こんな風に生きていこうとか。カウンセラーじゃないからさ。みんなの雰囲気や空気感はわかる。だから、それは音楽に出来ると思う」と自分なりの音楽づくりを語り、こう締めくくった。
「たださ、音楽で政治的なことを発言したり、それを音楽にしてる人たち、俺は素晴らしいと思うよ。すごいなって思う。本当に。だから、そういう人たちに牙を剥いたり、言いがかりつけたりしてる人たちは本当によくないと思うよ。別にいいじゃん。自分と違っていいのに、なんでそれがさ……。まあね、色んな考え方があるよな」
山口が伝えた等身大の意見。配信のコメント欄や、Xで拡散されいてる切り抜き動画に対しては、以下のように山口に賛同する声が多く上がっている。
《表現方法はそれぞれ ミュージシャンだからこうしろ、もないよ》
《「そりゃ戦争はなくなってほしい、でもどうしたらなくなるかは自分には分からない」としているところが、山口さんの誠実さですね》
《自分の気持や考えを周囲に押し付けず、相手の意見を批判しない。受け入れずとも、「そういう考えもあるんだな」とみんなが受け止める事ができたら優しい世界になるのになと思っています》
《ミュージシャンは己の表現したいことを表現するのが仕事だよね。そういう人たちに対して何かを語れ!と要求するのも、語るな!と要求するのもすべてナンセンスだと思う》
