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「肛門から数センチのところにがんができてしまったから、手術では肛門の周辺をまるで茶筒を抜くようなイメージで、ざっくり切除。その後、左右のお尻を強引につなぎ合わせたので、お尻の割れ目がなくなっちゃったんですよ」

 

開口一番にそう語るのは、マンガ家の内田春菊さん(58)。大腸がんが原因で、人工肛門の生活になるまでの経緯をまとめた『がんまんが』(ぶんか社)が注目されている。同作品の表紙に描かれている女性の左脇腹にある、赤いおできのようなものが目を引く。

 

「穴を開けた脇腹から、体内で切り離した大腸を出しているんです。ここから排せつできるよう、人工肛門の袋を装着しました。慣れれば、意外に楽なんです」(内田さん・以下同)

 

達観したように見えるほど、時にユーモアを交え、時に淡々と語る内田さん。人工肛門に至るまでの経緯を振り返ったが、がんを発見するまでに少し時間がかかってしまったという。

 

「’15年の春、スーツのウエストがきつくなって糖質制限ダイエットに挑戦したんです。最初の3カ月で10キロも減ったのが、すごく面白くて」

 

制限したのは糖質だけ。たっぷりの野菜、筋肉を維持するための肉類も食べていたが、体重が下げ止まらずに、41キロくらいまで減り続けた。

 

「心配した4人の子どもたちからは『読者モデルの足みたいになってるよ』なんて言われました」

 

このころから便秘がひどくなった。しかし「糖質制限ダイエットは便秘しやすい」という情報があり、ほかの病気を考えなかったという。

 

「お尻が嫌な感じで腫れぼったくて、あるときトイレでガスが出たときに、血が飛び散って……。座業なんで、痔がひどくなったのかと思って、それでようやく医者に診てもらおうと、痔の治療で有名な病院に予約を取ったんです」

 

ダイエットを初めて半年以上たってから、大腸内視鏡検査をすることに。だが、検査を始めた瞬間、医師は内視鏡を抜き、デスクに向かって他病院への紹介状を書き始めてしまった。

 

「医師は私の目を見ずに『大きな病院に行ってください』『一刻を争います』『大丈夫ですからね。治療すれば治ります』と。これだけのキーワードがでれば、がんだとわかりますよね」

 

育児マンガを描いていることもあり、その際にアドバイスをもらっている産婦人科医に相談すると『すぐウチの病院に来なさい』と言ってくれた。

 

「そこから、早かったです。1~2日後に病院に行って、CTと血液検査、触診をして、がんと確定できたみたいです。誰も『がん』とは言ってくれないんだけど、医師同士が『大腸がんの専門家はいないの』『人工肛門は免れそうか』とやり取りしているから、告知されたようなものです」

 

知人に大腸がん経験者がいるので、このころはすぐに死ぬような状況ではないと考えていたという。

 

’15年の年末から、抗がん剤治療を開始。人工肛門を避けるためにも、できるかぎりがんを小さくして切除手術に臨む治療プランが立てられた。内田さんはシャツの第2ボタンを外し、右鎖骨下の傷口を見せてくれた。

 

「男の人の親指くらいの大きさの穴を開けて、抗がん剤を注入するポートという器具を埋め込むんです。局所麻酔だから、処置の間も意識があるんですね。鎖骨の下をジョキジョキハサミで切られている、なんとも言えない感覚が……」

 

抗がん剤の治療を終え退院するときは、心配した元カレが車で迎えにきてくれた。年が明け’16年に入った。命の不安は考えないように、いつもどおりの生活を心がけたが、ふとした瞬間に恐怖が訪れる。

 

「つい“うっかり死んでしまったらどうしよう”って。子どもたちも、私がそんな不安を口にすることで気が済むのだとわかってくれていて、話を聞いてくれました」

 

’16年4月、いよいよがんを切除するため、手術をすることが決まった。

 

「人工肛門については、ほぼつけることになりそうだと聞いていましたが、一縷の望みを捨てたくないんですね。そういった意味では、覚悟はできていませんでした。だから入院当日に、人工肛門をつける場所を決めて、おなかにマーキングしたときは“なんで? まだ決まっていないのに”って。でも、たとえ人工肛門になっても、上の娘に『母ちゃんが変わってしまうわけじゃないし』と言われたときは、すごく励みになりました」

 

こうして内田さんは大手術に臨んだのだった。3時間半の手術後にぼんやりと麻酔から覚めると、すでに病室のベッドに寝かされていた。病室から見える風景は、いつもと変わらない。だが、内田さんの体は大きく変化していた。

 

「カテーテルで排せつしているからよくわからなかったんだけど、看護師さんがお尻のほうとか、脇腹の傷口を確認しているのを見て、“ああ、なっちゃった”って……」

 

初めてシャワーを浴びたとき、「お尻がありえない形になっちゃった」と落ち込んだ。

 

「でも、退院しても現実は受け入れざるをえないというか、ストーマ(人工肛門の総称)の生活は余儀なくされますからね。それでもすごく救われているのは、人工肛門の装具が進化していることです」

 

身につけている1枚800円ほどの使いきりの袋や、2日で1回くらい取り替える500円ほどのフィルターなどの器具は、これから一生涯使い続けることになる。

 

「でも、慣れれば着脱は簡単だし、排せつ物をためる袋は1日1回、取り替えるだけ。袋は中身の見えないタイプもあるんです。お風呂も普通に入れますから、まだ行っていませんが、温泉にだって入れます」

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