(C)2019 映画『WALKING MAN』製作委員会 画像を見る

カリスマラッパーのANARCHYが初監督を務めた映画『WALKING MAN』が上映中だ。

 

吃音で人とうまく話せない貧しい青年の主人公のアトムが、ラッパーを目指しながら苦しい環境から一歩を踏み出していく姿を、野村周平が演じている。

 

2018年11月に11日間にわたり行われた撮影前、ANARCHY監督と野村周平は、2人でスタジオを貸し切り、映画のラストの見所でもあるラップの練習にも励んだという。

 

「お互いに歌っている姿を録画して確認したりと、僕と周平君の2人でカラオケいっている感じでした。彼も歌うのが楽しいんでしょうね。ラストのライブシーンでアトムが歌いあげる“Promis”は、僕が野村周平のために描いた曲です。人のためにまともに曲を書いたのも初めてだったんです。彼は、初めから歌えていたので、『歌の頭の部分はこう感情を入れたら』とか『こういう風に歌ったほうが気持ちが伝わるんじゃない』と、多少ラップの部分をアドバイスしました」

 

人前で話すことが苦手なアトムはラップと出会い、ノートに思いつく言葉を書きなぐっていく。「なめんな、なめんな、なめんな」やがて心の叫びはラップへと昇華されていき――。

 

「劇中で、周平君演じるアトムが、成長していく大事なポイントが幾つかあります。仕事場でゴミの中からカセットテープを見つける。そしてリリック帳というノートに、口には出せない思いのたけを書いていく。どんどんラップに彼が吸い込まれていく。アトムがラップと出会い、関わっていく中で、言葉、リズム、感情、音…何かをみつけていく瞬間がいくつかあるんです。特に、アトムが『なめんな』や言葉を書きなぐるシーン! そこからアトムの内面がどんどん成長していきます。周平君も演じていて、すごく難しかったはずです。撮影中は、僕も初めての現場でカメラマンやスタッフや俳優に助けられてその場その場で懸命に演出して撮影していました。そんな中、周平君の中で、しっかりとアトムの役作りを設定してくれていて。『ここはこうやったほうが、もっとアトムっぽくないですか?』『ここのアトムはこういう状態だと思います』と、提案してくれて助かりました。他の現場だったら、周平君は、もっと生意気だったかもしれないけど(笑)。普段から仲良くさせてもらっているので、彼も現場を盛り上げようと頑張ってくれました。その後、編集をしているときに、周平君が、アトムをちょっとして表情の違いなどシーンごとに成長させていってくれているのを感じリスペクトしました」

 

とはいえ、現場では一度だけ、険悪ムードになったこともあったと笑顔で懐かしむ。

 

「朝一ばんから撮影していて、川崎のチネチッタで深夜の2時には終わる予定が、時間が押して朝までになったことがあって。そのときは、彼も機嫌も悪くしましたね。翌日も早朝から撮影だったのもイライラした理由でした。その気持ちもわかるので、『しょうがないやろう』というと納得してくれました。連日、スタッフのみんなももう寝る時間もないくらい撮影してくれていましたし。このことがあって、現場のモチベーションは上がって、現場の空気が逆によくなったんです」

 

(C)2019 映画『WALKING MAN』製作委員会

 

初監督として臨んだ現場。ラストカットでは涙が出そうになったという。

 

「ラストシーンのアトムと妹のウラン(優希美青)の2人の場面。妹がアトムに心を開くんですが、撮影していて、うるっときて、すぐに『カットOK!』と言っちゃいました(笑)。この場面に、兄のアトム、妹のウラン、映画のエッセンスが詰まってる気がします。僕も精一杯、出来る限りのことはやり、自分がつくりたい映画を、つくれたという気がしていますし、自分が伝えたいメッセージは作品の中に入っています。正直、編集しているときには、観客にどんな風に届くのかなと気になりましたが、公開されて1週間たって、今のほうが初監督で映画をつくった実感もでてきています」

 

格差が広がり、閉塞感もある中で、あきらめないことの大切さ。一歩踏み出すきっかけになってほしいと語るANARCHY監督はすでに次回作も構想中だ。

 

「人生のマイナスな部分やコンプレックス、家庭環境などのせいにしてしまうことも多いと思います。でも、アトムにとってはラップでしたが、そんな状況と戦える精神力やハングリーさを養える何かを見つけた時点で変われると思います。そして、そこから一歩踏み出したときに、また違う人生の景色が見えたりするはず。だからずっと立ち止まっている人には、この映画を観て、『止まっていたら何も起きない』と思い、自分を成長させる何かと出会ってもらえたら嬉しいです。若い子たちだけじゃなく、大人のみなさんにとっても、一歩踏み出すきっかけになる映画になってほしいです。次回作?……それは内緒(笑)。でもヒップホップに精通したものとか、まだ自分に表現できるものがあると思うので、そうしたテーマで表現したいです。いきなり戦争映画はつくれないですから(笑)。僕自身から湧き上がるものをもう一度、プロデューサー高橋ツトム、脚本梶原阿貴、監督僕のトリオでつくりたいと思っています」

 

【ANARCHY】
京都・向島団地出身。父子家庭で育ち、荒れた少年時代を経て、ラッパーとして活動することを決意。05年のデビュー以降、異例のスピードで台頭し、14年にはメジャー・デビューを果たす。今作『WALKING MAN』で映画監督としてもデビュー。

 

日本を代表するカリスマラッパーANARCHY初監督
主演 野村周平
映画『WALKING MAN』
(C)2019 映画『WALKING MAN』製作委員会
10月11日(金)、新宿バルト9ほか全国公開中
https://walkingman-movie.com/

【関連画像】

関連カテゴリー: