もうすぐ創業60年。常連さんも4代目に入り、娘を"はるき"ちゃんと名付けた人もいる。調理場の若そうな職人さんが「今年で21年目ですね」とサラッと言ったりもする。ふた駅となりの吉祥寺にもお店を出した。二代かけて築いた味をこの先誰に伝え、のれんを守っていくのか?

 「みんな心が違うから、僕と同じにしろって言っても無理ですからね。でも"ハイ、おそばできました"って、ただ作ればいいってもんじゃない。やっぱり大事なのは、その人の心と人がら。中華そばはシンプルだからこそ、何年も作っていくと"なんだ、こんなものか"って飽きたり、壁にぶつかる時があるんです。それを超えると、奥が深くなっていくんですけどね」。技術や器用さで気づける問題ではないと幸一さん。春木屋には従業員の「三訓」として「場を清め、時を守り、礼を正す」という心得がある。「お客様や取引先に礼儀正しい、時間と約束を守れる。人間性を育てられる人は長く続けられるし、仕事も任せられる。僕が小さい頃、おいしいと評判の店に親父がよく連れていってくれたけど、味がどうこうより、まずその店のトイレを見なさいと言われました。トイレが清潔な店は調理場から何から全部、目が届いてるんだって」

 「"しっかりやってますから、見守っててください"って、ついおじいちゃんには声かけちゃう」と先代を偲ぶ正子さん。「この先続けていくには、今以上に"春木屋じゃないと食べられない"というものを出していかないと生き残れない。うちみたいな小さなお店は、専門店としての個性と主張を貫いていかないと、大きい所に負けてしまう。真面目に考えたら頭痛くなっちゃう(笑)」。老舗の人気店とは思えないその必死さ、チャレンジャー精神に驚く。のれんを"守る"というより、むしろ"攻め"。幸一さんの言葉で結ぼう。

 「うちは特に中華そばだけだから、余計真剣になっちゃうんですよね。命がけでやらなくちゃいけない。それしかないんですから」

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