長年の立ち仕事による足の手術、23年前には最愛の奥さんを病気で亡くされ、悲しみのあまり半年ほど店を閉めていた時期もあった。何度となく人生の困難に襲われながらも、その度に立ち上がり、ラーメンを作り続けてきた山岸さん。「本当は去年の3月で店を静かにしまいたかったんだけどね(笑)。この新しい店舗も周りの人が探してくれて、見てみたら最初から軒がついてて、雨の日にお客さんが並んでも大丈夫。隣は駐車場だから列ができてもお隣に迷惑をかけることもない。これはいい物件だなと思ってね…」まず考えるのはお客さんのこと。その人柄がうかがわれる。「妻が亡くなって、ずっと店閉めてた時もね、もう店を続けていてもしょうがないって思ったんだけど、店先の貼り紙に39ものお客さんからのメッセージが書かれていてね。大阪や九州から来たというお客さんの言葉もあって、これはやらなきゃしょうがないなって。お客さん、弟子、ラーメンの不思議な縁のおかげで、今までお店を続けてくることができましたね」のれん分けして独立させた弟子たちへの思いも、いわゆる"ラーメン屋の頑固オヤジ"的なものとは一味違う。「やりなさいやりなさいで、どんどんどんどん出しちゃった。それが良かったか悪かったかはわからないけど(笑)。でもね、いいんです、味は違っても。そのエリアで好まれる、親しみのある味ならば。精一杯がんばってね、地元のお客さんに守ってもらえるお店にできれば、それでいいんです」毎朝、東池袋のお店でのスープの味見は欠かさない厳格さ。一方で独立して各地に散った弟子たちには、その人柄を信じきって、味を委ねる大らかさ。人間としての幅を感じる。系列点では平均650~700円で提供される、もりそば。おいしく、お腹いっぱい食べられる、みんなのラーメンだ。「僕は子供ができなかったからね。教育費とか、普通なら子供にかかるはずのお金を全部ラーメンに注ぎ込むことができた。スープの材料も、たとえば昔はひき肉なんて高かったから、どこも入れなかったんです。でも僕はバンバン入れちゃった(笑)。『もうみんな、すでにおいしいって言ってくれてるんだから、それ以上やらなくてもいいじゃない』って言われたりもしたけど、バンバン入れちゃったね」子供を育てるように手塩にかけた、東池袋・山岸大勝軒のもりそば。親の愛情をたっぷり受けて育った"子供"は、やはり誰からも愛されるようだ。