細い鉄の階段をハシゴのように下り、地下室へ。製麺機に述べ台があり、小麦粉の袋が積まれている、自家製麺所がそこにあった。毎日ここで麺とシュウマイやワンタン用の皮を打っている。

 高騰を続ける小麦、多くの店が値上げを余儀なくされている。大勝軒でもこの4月から泣く泣く50円だけ上げた。それでもラーメンもシュウマイも、いまでも550円の良心価格だ。


 「厳しいけどね。自分の持ち家で、家族で、自家製でやっているから、なんとかやれているけど、これで家賃と人件費を払って、出来合いの材料を仕入れていたら、やっていけないだろうね」


 現在、奥さんと息子夫婦と4人でお店を切り盛りしている岩上さん。3人のお孫さんもいらっしゃるので、お店はこれからも繁盛させないといけない。


 かつてTVの取材で来店したヨネスケさんが、シュウマイの皮打ちに挑戦したが、岩上さんの、フグ刺しのように薄く皮を伸ばす腕前に驚いていたとか。一朝一夕で身に付く技術ではない。にもかかわらず、いや、だからこそ? 岩上さんは息子の孝之さんに仕事の一切の技術を教えていない。かつての自分がそうであったように、全部、見て、盗ませる。


 「息子でも他人でも関係ない。食べ物の仕事は甘くないですよ。いい加減な仕事をして味が落ちれば、お客さんはすぐわかるし、食材の安全性や鮮度には気を遣って、遣いすぎることはない」


 いま、食の安全がいたるところで問題になっている。良い材料を使って、ていねいに作る。岩上さんのラーメン作りの姿勢は、当たり前といえば当たり前のものだが、食品の安全性がここまでないがしろにされている昨今では、むしろ少数派な気がする。


 「新しいお店ができると、たしかに厳しい。やっぱりお客さんは流れるから。でも、しばらくするとまた戻ってくるんだね。いいものを作っていれば、お客さんは巡り巡って、来てくれるんですよ」


 食べ物の「おいしい」には、いろんな「おいしい」があるだろうが、安全で栄養のある材料を使っているから体に「おいしい」が基本、だと思う。


 「スープを最後の一滴まで飲み干してくれると、うれしいねえ! 年取るとなかなかそうもいかない人も多いだろうけど、僕は今でも全部飲んでるよ。『うまいうまい、こんなにおいしいものがあるのか!』って。医者からは控えろって言われてるけど(笑)、ラーメンで死ねるなら、それでいいや!」

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