そして“跡取り息子”とばかり思っていた大柄なお兄さんが、橋本重光さん。この日もお店の真ん中で手際よくラーメンを作っていたが、「江ぐち」の隣にある大衆割烹の息子さんだった(笑)。

ただ70代に入る井上さん、そしてオーナーに専念している二代目社長と、後継者探しに悩んでいた「江ぐち」に入った若い人材なので、“跡取り息子”に見えたのもあながち間違いではなかったのだろう。

入店3年目、現在27歳。それまで某高級割烹で働いていたが、24歳で結婚したのを機に「江ぐち」に入ったと聞けば、決意のほどもうかがえる。

「普段歩いていても、“あの味がなくなるのは淋しいから続けてよ”とかお客さんに声をかけられると、がんばろうって気持ちになりますね」

これまで取材してきた数々の老舗。その多くが後継者不足に悩んでいて、少なからず淋しい気持ちになったものだが、今回のような話は本当にうれしい。なんでも橋本さんがお店に入ってからは若いお客さんが増え、以前よりも“大盛”がたくさん出るようになったとか。

井上さんも橋本さんには期待している。

「私も昔は10人からのお客さんの注文全部聞いて、お釣りも渡してたけど、最近は“アレ、何だったっけ?”ってなっちゃう時もある。ダメだね、歳とると(笑)…彼は入ってすぐの時、いきなり忙しい土日のお客さんが山の時にやらせてみたら、途中かなりヘバッてたけど、すぐに仕事おぼえましたよ。客商売の基本もできていたし、がんばってくれてると思います」

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