毎年、冬になると猛威を振るうインフルエンザとともに、さまざまな感染症が流行する。今シーズン、感染者が急増中なのが「RSウイルス」だ。

 

「感染すると、特に乳児は気管支炎や肺炎を、慢性呼吸器疾患(肺気腫や喘息)の持病のある高齢者は重度の呼吸障害を起こすことがあります。今シーズン、全国約3千の小児科医療機関から報告された患者数は、昨年の12月9〜15日で4千385人。5週続けて患者数の多い状態が続いています。通常、この感染のピークは冬ですが、昨年は6月から患者数の増加が確認され、老人ホームなどでは集団感染も起きています」

 

こう話すのは国立感染症研究所・感染症疫学センター第6室長の木村博一さん。同センターによると、’12〜’13年のシーズンの感染者数は3万568人、2年前と比べてほぼ2倍。今シーズンは前年を上回るペースで増えているという。

 

’13年2月には、千葉県内の老人福祉施設で利用者と職員計67人が熱やせきの症状を訴え、利用者15人が肺炎で入院し、このうち3人が亡くなった。亡くなった2人を含む患者6人から「RSウイルス」が検出されているように、集団感染が疑われる事例も報告されている。

 

じつは「RSウイルス」は珍しい病気ではなく2歳までにほぼ全員がかかり、以後再感染を繰り返すという。「RSウイルス」感染症の症状と危険性について、ナビタスクリニック立川(東京都立川市)の細田和孝院長が説明する。

 

「ウイルスに感染すると、たいていは4〜6日間の潜伏期間を経て、発熱や鼻水、乾いたせきなど風邪のような症状が数日続きます。多くは軽症ですみますが、せきがひどく日常生活にも支障をきたすような際には、検査も考慮します。重くなる場合にはせきがひどくなる、ぜいぜいするせきが出る、呼吸困難などの症状が現れ、場合によっては、細気管支炎、肺炎へと進行します。初めて感染する乳児や高齢者、心臓や呼吸器に持病がある人は症状が重くなりやすいので要注意」

 

特に、生後6カ月までは、呼吸困難や枝分かれした細い気道に炎症を起こす細気管支炎、肺炎といった症状が出やすいという。さらに、合併症で中耳炎のほか、急性脳症、無呼吸発作など突然死につながる症状を起こすこともあるので、“たかが風邪”とあなどってはいけない。

 

「怖いのはインフルエンザと違って、38度以上の高熱が何日も続くわけでもないので、大人や小学生以上の子供が感染しても、“普通の風邪”と思うこと。知らない間に、赤ちゃんやお年寄りにうつしてしまいます」(細田院長)

 

ウイルスは、くしゃみによる飛沫感染、よだれやツバがついた手で触ることによる接触感染で広がる。感染力は強く、大人がかかると免疫力の弱い子供にうつりやすくなる。家庭で予防の意識を持つしかないのが現実だ。さらに厄介なのは「RSウイルス」に感染しても、インフルエンザのようなウイルスの増殖を防ぐ薬やワクチンがないこと。永寿堂医院(東京都葛飾区)の松永貞一院長は次のように語る。

 

「発熱に対しては解熱剤、たんを切りやすくする薬や、気管支を広げる薬などによる対症療法で重症化を防ぎます。特効薬はありませんので、早期発見が大切です」

 

小さい子供を持つ親は小児科の「かかりつけ医」を探しておいたほうが安心。また、子供の健康を守るためにウイルスの知識を得ておいたほうがよさそうだ。

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