「電車の中で急におなかが痛くなり、次の駅が待ち遠しい——。いまや成人の10人に1人が該当するという『過敏性腸症候群』。『体質だから』と片付けがちで、医療機関を受診する方が少ないのが特徴です。しかし、患者さんの8割は不安やうつ症状に悩まされているという説もあるので、ただ事ではありません」

 

そう語るのは、順天堂大学教授の小林弘幸先生。とくに、出かける先々で冷房が効きすぎていたり、つい冷たいものに手が伸びてしまい……と、この季節は症状が悪化しやすいもの。

 

「もともとこの病気はストレスが原因とされ、脳から腸への影響によるものとされていました。ところが最近は、反対に腸内細菌が脳に影響を与えている可能性が示唆されています」

 

腸内細菌は行動をも変えるという面白い研究が報告された。カナダ・マックススター大学の消化器病学者、ステファン・コリンズ教授が昨年から行った研究では、暗い部屋でも光を求めて動き回る「冒険好きなマウス」と、動こうとしない「臆病なマウス」を用意。それぞれの腸内細菌を相手に移し替えるという実験を行ったところ、両者の行動が逆転!

 

「臆病だったマウスがアクティブに、アクティブだったマウスは臆病になったそうです。これは私の推論ですが、腸内細菌のバランスは、脳機能を高める『NGF』という物質の濃度に影響を与えるといわれています。つまり、アクティブなマウスは臆病なマウスより、腸内環境が整っていたのでしょう。細菌を移植したことで臆病なマウスの腸内環境が改善。脳機能が活発になり、ふるまいもアクティブに変化したのではないでしょうか」

 

実際、臆病だったマウスは、脳内の神経細胞の成長を促進する、タンパク質のレベルが上がっていたという結果も。これはNGFが作用したのではないかと、小林先生は考えている。不安感や積極性が、腸内環境と関わっていたのだとしたら……。

 

「腸の不調がストレスになり、心にも影響を及ぼすことを腸心理症候群といいます。おなかが弱くて、メンタルでも不安を抱えやすい……という方は、腸内環境美化に着目してもいいかもしれませんね。とくにこの時期、腸内ケアで気をつけたいのが脱水。脱水症状は熱中症だけでなく、腸の動きを悪くし、炎症を引き起こす可能性も。汗をかいたら、こまめな水分補給を心がけましょう」