「日本人はHPV(ヒトパピローマウイルス)のことを知らなすぎる。『子宮頸がんウイルス』という間違った言葉が使われているくらいですから。HPVは子宮頸がんだけでなく、咽頭がんや食道がんなどの原因であることは、世界的には常識です。HPVはワクチンで防げるのにほとんどの人が受けていない。それに、男性器をよく洗うことだけでも、感染リスクはかなり減ります」
そう語るのは、ウイメンズクリニック南麻布院長の清水敬生先生。開業以来、子宮頸がんおよび高度異形成の日帰り手術を年間250件以上行う、国内トップクラスの実績を持つエキスパートだ。「日本人が知らないHPVの常識」について清水先生が解説してくれた。
■HPVで罹患するのは子宮頸がんだけではない
「HPV感染細胞は、すなわち『異形細胞』。それがやがて子宮頸がんになることはよく知られていますが、実は食道・咽頭・喉頭・肺・舌がんもHPV感染が原因の1つ。これはオーラルセックスなどによって感染すると考えられます」
■セックス前に男性器を石けんで洗うと感染予防に
「HPVは人の性器や粘膜に潜んでいます。石けんでよく洗えばほとんどのHPVは落ちるんです。男性はほかの女性とセックスしたあと、よく洗わずに別の女性と性交渉し、感染するということですね」
■インフルエンザと同じDNA型ウイルス
「ウイルスはDNA型とRNA型に分けられ、HPVはインフルエンザと同じDNA型。粘膜感染だけでなく、極論すると手をつないだだけでもらう可能性があります」
■男性器のコンドーム装着だけでは感染を防げない
「男性器のコンドーム装着だけでは、完全ではありません。指や口を通して体内に入る可能性もあるからです」
■「異形成」は自然に消えることはない
「一度異形成ができたら、軽度であろうと自然に消えることはありません。軽度・中度の異形成の人が『自然に治った』と診断されることがあります。残念ながら、頸部の細胞診の精度は、詳細な研究はないものの、せいぜい60%程度。軽度異形成の30%はNILMと診断されます。高度異形成でさえNILM(class I)と診断されることもまれではない。細胞診を過信してはいけません」
■HPVは100種以上あり、がんにならない型もある
「HPV感染がわかったら、まずはHPV-DNA型判定(自費診療・ウイメンズクリニック南麻布では1万9,000円)で型を調べること。もっとも悪性の型16、18はよく知られていますが、31、33、35、39、45、51、52、58、59、68、さらに82も悪性度が高いことが判明しています」
■ハイリスク型では1年以内にがん化することも
「ハイリスク型は感染1年以内にがんになることもあります。ローリスク型でがんになることもあるし、ハイリスク型でもならないケースも。異形成は経過観察が重要です」
■保険適用の細胞診は3〜4割が誤判定
「細胞診では、異形成またはがんがあるのに、NILM(異常なし)と出るケースが3〜4割もあります。患者さんは安心してその後検査を受けなくなり、気付けば進行がん、ということも少なくない」
■6、11型は子供の命に係わる危険な型
「がん以外にHPVが引き起こす病気で特に恐ろしいのは尖圭コンジローマ、呼吸器乳頭腫です。この原因となるのは6、11型ですが、現在保険適用のHPV検査では6、11型は検出されません。この型に感染した場合、経膣出産は避け、帝王切開したほうがいい。経膣出産すると子供の喉に感染し、喉にできたイボで呼吸がつまって窒息死の原因となるからです」
■ワクチンの副作用は因果関係が不明
現在、HPV予防ワクチンによる慢性疼痛やその他の症状などの副作用が問題視され、政府はワクチンの「推奨」を一時中止に。日本のこの判断について、’15年12月17日、WHOが「強く批判する」という声明を出している。
HPVによるがんは、正しい知識で予防できるのだ。