9月下旬、大阪医大や骨粗鬆症財団などの研究チームが、《40歳以上の女性の大腿骨骨折の発生率は中部から九州にかけての西日本で高く、地域差は最大で2倍近くにもなる》という調査結果を発表して注目を集めた。
’15年に大腿骨を骨折したのは、男性で約3万2000人、女性で約12万人と、女性が圧倒的に多い。なぜ大腿骨骨折が女性に多いのかといえば、女性ホルモンの減少のせいだという。閉経後は、エストロゲンが急減し、骨密度も低下するため、骨の強度も低下してしまうのだ。とくに10月以降から3月にかけて、大腿骨骨折の患者数は増えるので要注意だ。
「骨折した後は、リハビリをしっかり行わないと、寝たきり生活になり、介護が必要になってしまうので、これからの季節は注意が必要です」
こう警鐘を鳴らすのは、高輪台レディースクリニックの尾西芳子副院長。骨粗しょう症による大腿骨骨折を防ぐため、尾西さんが着目しているのが、「エクオール」という物質だという。
「大豆に含まれる『大豆イソフラボン』は女性ホルモンのエストロゲンと似た働きをしています。最近の研究では、この働きの源になっているのが「エクオール」という成分であることがわかってきました。10mgのエクオールを12カ月飲み続けた人は、骨密度の低下を抑えられるといったデータもあり、骨粗しょう症の予防と改善のほかにも、更年期障害の症状を和らげる効果が期待できます」(尾西さん・以下同)
大豆製品から摂取する大豆イソフラボンには、3種類の物質「ダイゼイン」「グリシテイン」「ゲニステイン」があり、このうち「ダイゼイン」が腸内細菌によってエクオールに変化する。しかし、いくら大豆イソフラボンを摂取しても、エクオールを体内で作ることができない女性も多く、日本人では2人に1人がそれに該当する。エクオールを作れる人のほうが、作れない人に比べて、骨密度の低下率が低いという研究結果もあるのだ。
「エクオールを作るためには、腸内環境が整っていなければなりません。つまりエクオールを生み出す腸内細菌がいて、それがきちんと働いていなければならないのですが、それには食生活が強く影響しています。世界規模で見れば、エクオールを作れる人は、欧米では20〜30%、アジアでは約50%と、地域差が顕著です。これについては大豆製品を食べる習慣が関係しているのではないかと推測されています。日本国内でも地域差は大きく、関西に比べて、関東のほうがエクオール産生者が圧倒的に多いのです。その差については研究が続けられていますが、有力なのは“納豆文化”が関係しているのではないかという説です。納豆を食べることによって、腸内環境が整えられ、エクオールを作りやすくなるのではないかということです」
納豆には、カルシウムの骨への取り込みを助けるビタミンKも豊富に含まれている。総務省の家計調査によれば、’16年の納豆の消費量(支出金額)の多い県は、1位から順に茨城、岩手、福島、群馬、青森と北関東、東北が上位を占める。いっぽう消費量が少ない県は和歌山、徳島、兵庫と続くが、大腿骨骨折発生率の1位と2位である兵庫と和歌山が含まれているのが興味深い、大腿骨骨折は“西高東低”、納豆消費量は“東高西低”と、まさに表裏となっている。
エクオールを作るため、あるいはビタミンKを摂取するためには、納豆がおすすめということのようだが、実はやみくもに食べればよいわけでもないという。
「大豆イソフラボンは取りすぎにも注意が必要です。厚労省の国民栄養調査によりますと、日本人の平均摂取量は1日16〜22mg、摂取量の上限は70〜75mgと設定されています。現代人の食生活では、大豆製品の摂取が減少しているので、毎日、納豆1パックか豆腐1丁の3分の2を食べる習慣をつけるといいでしょう。エクオールが作れない人はサプリメントで補うことも可能です」