日本人の平均寿命は延び続け、’17年には男性が81.09歳、女性が87.26歳となり、100歳を超える人も年々増え続けている。人生100年時代が到来したが、いつまでも自立して暮らせているわけではない。平均寿命と健康寿命の差をみると、男性は8.95歳、女性は12.47歳。健康寿命を左右するカギを握るのが“ひざ”のコンディションにあるという。
「“ひざの痛み”を訴える中高年は2,800万人いると推計されています。自分の足で歩けなくなると、介護が必要になるだけでなく、積極的に外に出て人と関わろうという気力も失われて、どんどん心と体が弱っていきます。認知症のリスクも高まります。そのように自立を奪う最大の要因が“ひざ痛”です。ひざの痛みを克服して、“100歳まで歩けるひざ”を作ることが、寝たきりになることを防ぎ、健康寿命を延ばす秘訣なのです」
そう話すのは、『100歳まで自分の力で歩ける「ひざ」のつくり方』(アルファポリス)の著者で戸田リウマチ科クリニック(大阪府吹田市)の戸田佳孝院長。戸田院長は、ひざ痛の原因となる「変形性ひざ関節症」が専門で、「ひざ痛」を訴えて来院する患者さんと日々接している。
ひざに痛みをかかえる中高年のうち、変形性ひざ関節症にかかっている人は、東京大学の調査によると2,530万人、そのうち女性は1,670万人、男性860万人。40歳以上で関節の不調を訴える人の割合をみても、6割を女性が占める。
「患者さんに女性が圧倒的に多いのは、筋肉がやせてくるタイミングで閉経することが原因と考えられます。閉経後、ほとんどの方が太ってくるのでひざに負担がかかりやすくなる。50代から患者数が急激に増えてきます」(戸田院長・以下同)
人間は筋肉の衰えをそのままにしておくと、20歳ごろをピークとして1年ごとに1%ずつ、筋肉が減っていくといわれている。筋トレをしないまま70歳を迎えると、筋肉は20歳のときの半分(50%)になってしまう。足の筋肉が衰えると、ひざを伸ばす筋力が弱くなる。ひざが十分に伸びないと、歩行姿勢もひざに負担がかかりやすいものになってしまうという。
だが、やみくもにスクワットやウオーキングをすればいいというわけではなく、大事なのはひざを守る筋肉のトレーニングとストレッチをきちんと行うことだそう。そこで、戸田院長が考案し、多くの人の“ひざ痛み”を解消させた、「ひざトレ」のなかから、「ひざの痛みを和らげるストレッチ」を紹介。※ストレッチは痛みを感じたら無理をしないよう注意。
【ひざを曲げるストレッチ】
足を伸ばして床に座り、片方のひざを抱えて胸のほうに引き寄せる。10秒キープ。反対側も同様に、それぞれ3セットずつ行う。
【ひざを伸ばすストレッチ】
海苔の缶くらいの直径の筒状のものをふくらはぎの内側で上下数センチ転がす。2分間続ける。※反対側も同様に。缶の中心がふくらはぎの内側に当たるようにする。
【鵞足のストレッチ】
鵞足=ひざの内側を後ろから前に斜めに走る、ひざを曲げる筋肉。流れに沿って、親指で圧を加えながら伸ばすようにストレッチ。
【内側側副靱帯のストレッチ】
内側側副靱帯=ひざの内側を縦に走る靱帯。ひざの横揺れを防ぐ。内側側副靱帯の流れに沿って、太ももから足先の方向へ圧を加えながら引き延ばす。
ひざのストレッチの基本は「曲げるストレッチ」と「伸ばすストレッチ」。海苔缶などを用いた「伸ばすストレッチ」では、ふくらはぎの内側に海苔缶が接するように行うのがコツ。これらを続けると、太ももとふくらはぎの筋肉がしっかり動くようになるという。
「ほかに、痛みの出る方向に押すことで筋肉や腱を軟らかくして、痛みを感じにくくする『痛点ストレッチ』も有効です。ひざの内側を後ろから斜めに走る筋肉の集合体『鵞足』と、『内側側副靱帯』を押して伸ばす方法を起床時と寝る前に行い、慣れてきたら三度の食事後も行い、1日5回を目標にしましょう」