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日本人の多くが「ひざ痛」に悩まされている。その数は’05年に東京大学医学部の研究グループが行った調査によると約2,400万人。ひざ痛の患者とその予備軍を含めると約3,000万人、じつに日本人の4人に1人にものぼるという。

 

そして、その原因の約9割を占めると考えられているのが「変形性ひざ関節症」だ。

 

「変形性ひざ関節症の症状の進行には、肥満や運動不足による筋力の衰えが大きく影響してきます。デスクワークや家の中で座りっぱなしの時間が長い人は、ひざ関節を支える筋肉や靭帯(骨と骨をつなぐ丈夫な線維組織)が衰えていくからです。特に中高年以降の女性で、肥満体質や運動不足の人は要注意」

 

そう語るのは、江東病院理事長で順天堂大学医学部整形外科特任教授の黒澤尚先生。黒澤先生は、1回1分程度、自宅で簡単にできる「運動療法」を’80年代から提唱。世界的に効果も実証され、臨床現場でも治療に取り入れられている。

 

「変形性ひざ関節症は、女性なら50歳以上、男性は65歳以上になると発症しやすく、女性のほうが男性よりも3〜4倍多いという傾向があります。その理由は関節軟骨を守る女性ホルモンが加齢により減ってくることと、筋肉量が男性よりも少ないことです」

 

「コロナ太り」も変形性ひざ関節症の大きな原因だという。体重が重ければ、当然それだけひざの負担が大きくなる。また、運動不足で筋肉量が減ると、その分、ひざへの負担が大きくなってしまうのだ。

 

年を取るのは誰しも避けようがない。しかし、体重を減らしたり、運動不足を解消したりすることで、変形性ひざ関節症を予防することは十分可能だと、黒澤先生は指摘する。

 

「これまでひざ痛の患者さんには、安静が勧められていましたが、それは大きな間違い。動かないでいると、ひざ周辺の筋肉や靭帯が衰えてしまいます。安静にして鎮痛剤を使えばひざ痛は一時的に治まりますが、筋肉や靭帯が衰えているところで、ひざを以前と同じように使うと、痛みがぶりかえしてしまうだけ。ひざ痛の解消には、むしろ適度な運動こそが必要なのです」

 

変形性ひざ関節症の患者のうち、手術が必要な重症の患者は年間約7万人。残りの99%以上の人は、温熱やリハビリ、運動などの保存療法で症状がよくなっているといい、実際、国際関節症学会では、「薬を用いない治療を中心にして、薬の治療は補助的に用いる」ことをまず第一に推奨している。

 

特に同学会が勧めている運動療法が次の3つだ。

 

【筋力強化】太もも前面にある大腿四頭筋の日常的な強化
【有酸素運動】激しい運動ではなく、無理のない穏やかな運動
【可動域拡大】柔軟性が失われる のを防ぐための、ゆるやかな訓練

 

具体的には、「筋力強化」では太ももの前面の大腿四頭筋を鍛えること、「有酸素運動」はランニングなど激しい運動ではなく、ウオーキングなど日常生活程度の穏やかさで歩くことが推奨されている。また、ひざ関節を動かさないでいると、可動域が狭くなり柔軟性が失われてしまうため、無理をしない範囲での「可動域拡大」の訓練を行うことも促している。

 

3つの運動の際には、次の点を注意しよう。

 

【1】ひざを動かす場合に激しい運動は禁物

 

運動療法でひざを動かす場合には適度な運動を心がけること。ひざ関節に過度な力が加わると、『炎症性サイトカイン』という物質が多く分泌され、炎症を引き起こすことにより痛みが強くなってしまう。

 

【2】ひざに腫れや熱があるときも行う

 

運動療法による抗炎症効果で腫れや熱は治まっていくので、腫れや熱が治まるのを待たずに、無理のない範囲で行うことができる。※ただし事前に医師に確認すること。

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