「昔は薬のことは全部医師任せでもよかったと思うんです。でも今は、ドラッグストアやインターネットなどで、手軽に薬が買えるようになりました。おまけにコロナ禍で、感染予防のため、病気になっても簡単に病院に行けない事態が発生したことも記憶に新しいのではないでしょうか。こういう時代だからこそ、薬に対する正しい知識が必要なのですが、まだまだ誤解が多すぎる! 『たくさん薬を飲んだからすぐ治る』とは、ある60代の女性患者さんの言葉ですが、そんなことはありませんからね!」
そう語るのは、内科医でYouTuberの「ドクターハッシー」こと橋本将吉先生。
予防医学や健康情報を発信している先生のYouTubeは「わかりやすい」と評判を呼び、現在登録者数40万人超えの人気チャンネルに。現役の内科・総合医として診療を行うかたわら、一般向けの医学教育にも力を注ぐ人気医師だ。
「僕たち医師は薬を処方する際に『なぜその薬が必要か』を説明しているのですが、患者さんの話を聞くと、『理由はわからないけど、なんとなく飲んでいる』というケースが少なくありません。しかし、薬には副作用もあるため、用法・用量を誤るとかえって健康を損なうことになりますので、安易な服用や自己判断による中止には注意が必要です。おまけに、医学も薬も日進月歩です。かつては有効性が高いとされていた薬も、のちに副作用が発見されたり、危険性が明らかになることもあるため、一概に『昔飲んでいたから大丈夫』とも言えないのです。昔に比べ、格段に薬が手に入りやすくなっているからこそ、使う際には正しい情報をアップデートしていただけたらと思います」(橋本先生・以下同)
あなたの「薬の常識」は、もはや「非常識」になっているかもしれない。そこで、身近な症状ごとの「薬の新常識」を、橋本先生に聞いた。
【風邪】
「風邪薬といえば、つらい諸症状を抑える総合感冒薬。しかし、総合感冒薬に含まれる解熱剤には、多くの場合、胃がムカムカするといった副作用があるほか、鼻水を抑える抗ヒスタミン成分が眠気を引き起こすこともあるのです」
せっかく薬を飲んでも、食欲が減退してしまっては治りが遅くなるうえ、眠気が強くなって作業の効率も下がってしまうようでは、頑張ったかいもないというものだ。
「また、もし感染したのが溶連菌や肺結核などの特殊な菌で、初期症状は風邪に似ているが一般的な風邪ではなかった場合は、服薬によって症状が中途半端に落ち着いてしまうことによって、診断が遅れる可能性も否定できません。軽い風邪症状であれば、安易に風邪薬に頼るより、しっかり休んだほうが、ひどくならずに治るかもしれませんね」
【感染症】
「感染症から人類を救ってきたのは、抗菌薬や抗生物質などの抗生剤です。しかし、症状が治まったからといって飲むのを途中でやめるのは逆効果! 体内に生き残った菌が再び増殖するだけでなく、抗生剤がきかない『耐性菌』も発生しやすくなるといわれています」
抗生剤は、出された量を必ずきちんと飲み切ること。