「砂糖の取りすぎは、精神疾患のリスクにつながる」
甘いもの好きの女性にとっては気になる論文が、11月にアメリカの科学誌『サイエンス・アドバンシス』に発表された。研究を行ったのは、東京都医学総合研究所などの研究班。主任研究員の平井志伸さんは、こう明かす。
「リスクが高いのは砂糖や異性化糖などと呼ばれる糖類です。異性化糖は商品ラベルに“ブドウ糖果糖液糖”や“果糖ブドウ糖液糖”などと書かれていて、清涼飲料水やドレッシング、ケチャップ、アイスクリーム、菓子パンなどにも使われています」
なかでも、砂糖類が多量に入っている清涼飲料水には、特に注意が必要だという。
「若いうちに発症することが多い統合失調症や双極性障害(そううつ病)の患者さんは、1日平均約2リットル、約200グラムもの砂糖を含む清涼飲料水を飲む方が多いということは、以前から知られていました。これらの病いは遺伝的要因やストレスなどの環境要因が組み合わさって発症しますが、砂糖類の過剰な摂取も単なる症状ではなく、環境要因の一つとなる可能性がマウスの研究から見えてきたのです」
平井さんは研究結果について、こう解説する。
「思春期のマウスのエサに多量の砂糖を混ぜて与えたところ、認知機能が低下したり、すみかを整理できなかったり、毛繕いが異常に増えたりと、精神疾患と近い症状が現れました。もともと遺伝的に精神疾患になりやすい素質をもっているマウスに、砂糖を過剰に与えたときの脳を調べると、毛細血管に炎症が起きていました。炎症によって脳のエネルギー源である“ブドウ糖”という物質がスムーズに脳内に取り込まれなくなっていたのです。そのために脳の元気がなくなって、精神疾患につながっていたと考えられます」
■砂糖の過剰摂取で認知症リスクが
統合失調症や双極性障害は、思春期の過剰な砂糖の摂取が一因という仮説だが、「中年以降になっても砂糖の取りすぎには注意が必要」と平井さん。
「今回、精神疾患の患者さんの脳を解剖したところ、マウスと同様に毛細血管の炎症が見られました。一方、うつ病や認知症は成人に多い疾患ですが、脳内血管の炎症が影響しているという論文が近年数多く発表されているので、どの年代の方でも砂糖の取りすぎは注意が必要と思われます」
海外でも認知症と砂糖の関係については研究が進んでいる。
「砂糖類が多量に入った清涼飲料水や、塩分や脂質が多いジャンクフードを摂取し続けている人は、脳の記憶力や抑うつのコントロールにも関係している “海馬”が萎縮するという研究結果があります」
こう話すのは、アメリカ在住の医師で、海外の論文に精通している大西睦子さん。
「これは、オーストラリアのディーキン大学が調査したもので、’01年時点で60~64歳の255人を対象に追跡したものです。その研究によると、日常的に清涼飲料水やジャンクフードを摂取している人は、4年後には左の海馬が平均約52.6立方ミリメートル縮み、逆に野菜や魚など健康的な食事をとっている人は、平均約45.7立方ミリメートル大きくなっていたのです」
砂糖を多量に摂取し続けると、うつや認知症のリスクが上がる可能性があるということだ。とはいえ、忙しい朝などは、ついつい菓子パンで朝食を済ませてしまうという女性も多いだろう。
1日あたり何グラム程度の砂糖なら、精神疾患のリスクにつながらないのか。
「残念ながら、まだはっきりした研究結果は出ていませんが、マウスの研究では1日2回の5%の砂糖水(一般的な清涼飲料水に含まれる砂糖の量)を自由に摂取させることで、うつ症状が出るという結果もあります。WHO(世界保健機関)は、肥満や虫歯にならないための目安として、成人および児童の一日あたりの砂糖の摂取量を、25グラム以下にするよう指針を発表しています。精神疾患だけでなく、トータルに健康のことを考えた場合、少なくとも25グラム以上は取らないほうがよいと考えられます」(平井さん)
「アメリカで’17年に発表された論文では、砂糖を毎日67グラム以上摂取している男性は、そうでない男性と比べ、5年後に精神疾患の診断を受ける可能性が23%高いことがわかりました。女性についても同様の結果を示す論文があります」(大西さん)
砂糖が与えるうつ病などの精神疾患のリスク。「自分は甘いものをそんなに多く取らないから関係ない」と思う方も気をつけてほしい。次のように、ケチャップや加糖のミルクティーなど、意外なものにも砂糖は含まれているのだ。