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4月26日、病院で薬などと一緒に処方される高血圧症の「治療用アプリ」が薬事承認された。’20年にニコチン依存症の治療アプリが呼気の測定器とセットで承認されたが、アプリ単体での承認は国内初。高血圧症が対象の治療用アプリは世界初だ。そんな治療用アプリについて、経済ジャーナリストの荻原博子さんが解説してくれたーー。

 

■普及で医療費や研究費が削減できる

 

高血圧症の患者は日本に約4300万人。治療には食事や運動など生活習慣の改善が重要ですが、医師は通院時に指導するしかなく、自宅にいる間は患者のやる気次第。継続できないケースもありました。

 

そこで、治療用アプリの登場です。処方の際に教えられたパスワードを入力するとアプリが起動。患者は次の通院までの間、自宅で血圧を測定し、食事や体調などをアプリに記録します。

 

アプリはそれらを瞬時に分析して、減塩食や運動などを毎日提案し、目標の達成度を○%と知らせてくれます。アプリは24時間患者に寄り添う伴走者として、治療のためによい選択を促すというのです。

 

治療用アプリは新薬と同様、臨床試験も行われています。医師から生活改善の指導を受けた後、自宅でアプリを利用した患者は、アプリなしの患者より、治療12週目の血圧がより低くなり、脳や心臓の血管疾患を招くリスクを約10%下げる効果がありました。

 

実は私も最近、40年来の晩酌の習慣をやめ、飲酒は週に1日程度にする生活を始めたところです。体が軽くよく眠れて、生活習慣で体調が変わることを実感しましたが、どこまで続けられるか……。

 

まして病気を抱えながらだと、ひとりで立ち向かうのは大変です。アプリを開発したキュア・アップの調査では「自力で生活習慣を改善するのは難しい」と答えた方が50.7%でした(’22年5月)。医師が処方する治療用アプリは、最新の医学的知見に基づいたものですから、安心して利用できるでしょう。

 

現在、高血圧症向けの治療用アプリは薬事承認を得た段階で、これから薬価などが決まり、実際に治療で使われるのは’22年末となる見込みです。

 

薬価がいくらになるかはわかりませんが、保険が使えるので現役世代なら3割負担。たとえ高額になったとしても、自己負担額の上限を超えて払った医療費が返金される「高額療養費制度」が使えます。必要な方が利用しやすい価格になってほしいと思います。

 

また、治療用アプリの利用で投薬や入院が減れば、高血圧症にかかる年間約1兆7000億円とされる国の医療費が削減できるのではと期待が寄せられています。

 

さらに、治療用アプリは一般の新薬と比べて、開発期間は半分以下で、研究費用は100分の1以下。現在、不眠症患者向けはすでに承認待ちで、うつ病や糖尿病の分野でも各社が開発しています。

 

とはいえ、できれば病気になる前に生活習慣は改善したいもの。これを機会に見直してみては。

 

【PROFILE】

荻原博子

身近な視点からお金について解説してくれる経済ジャーナリスト。著書に『「コツコツ投資」が貯金を食いつぶす』(大和書房)、『50代で決める!最強の「お金」戦略』(NHK出版)などがある

経済ジャーナリスト

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