悪い癖と思われてきた「ひとり言」。実は自己肯定感を強め、記憶力をアップさせることがわかってきた。さらに「ひとり言」には、脳に刺激を与え活性化させ、眠っていた能力を伸ばす力があるという。
「あまりいい印象を持たれない『ひとり言』ですが、驚くほど脳を活性化させ、記憶力を高める力を秘めています。認知症の予防としても最適でしょう」
そう語るのは、脳内科医で加藤プラチナクリニック院長の加藤俊徳先生。“脳活”のスペシャリストである加藤先生は『なぜうまくいく人は「ひとり言」が多いのか?』(クロスメディア・パブリッシング)を出版。“ひとり言”をよく言うという加藤先生が、自らの経験もまじえ、1人でつぶやくことが脳に与える影響を紹介している。
「認知症になると、もの忘れや状況に応じた判断や選択ができなくなります。これは脳の海馬が関わり、思考するときに必要な情報を一時的に保存する『ワーキングメモリー』の機能低下によるもの。短期記憶をつかさどる働きで、たとえば会話ができるのもワーキングメモリーの作用で相手の話を記憶しているから。ここで処理される情報が多いほど脳全体が活性化します。ひとり言で、このワーキングメモリーを効果的に鍛えられるのです」
■意識的に発するひとり言でも認知症予防に効果的
意識的に発するひとり言でも、その効果があるという。
加藤先生がおすすめの認知症を予防する「ひとり言トレーニング」を教えてくれた。
「ウオーキングは体を動かす刺激だけでなく、景色や音、匂いといった情報が五感を刺激します。散歩しながら、その様子をブツブツと実況するのがおすすめ。面白い光景や美しい景色、草花、目につく建物などについて口に出して表現してみるのです。言語中枢を刺激するだけでなく、自らつぶやいた声は、自分の耳に“情報”として入り、脳の中をグルグル伝わって中枢に。このとき脳全体が活性化するのです」(加藤先生、以下同)
また、スマホでSNSや動画サイトなどを漫然と見ていないだろうか。画面を見ながら何かしらひとり言をつぶやいてみるのがいい。
「スマホからは大量の情報があふれてきますが、その情報がまったく記憶に残らないのは脳がほとんど眠っている状態だからです。脳を刺激するのが言葉です。スマホを見ながら何かしらひとり言をつぶやいてみてください。一方的に流れてくるスマホからの情報をただ受け取るのではなく、実況したりツッコミを入れたりしてもいい。
感じたことを声に出すことで脳が動きだし、多くの情報のなかから記憶に残すべきものかどうか整理します。このとき脳はフル活動をしているのです」
さすがに電車内や街中でスマホに向かってひとり言を言うのがはばかられるという人は、頭の中でつぶやいてもOKだ。
テレビも、ボーッと見ていないで、漫才のツッコミ役になったつもりで、ひとり言をまくしたててみよう。
「私もテレビに向かってよくつぶやきますが、口を動かし声を出すことで脳が刺激されます。とはいえ悪口や悪態は脳自体が一種の判断停止状態に。文句を言うだけでなく“もっと大人が見ても面白い番組にするべき”などと建設的なひとり言に発展させたり、“旅番組をもっと面白くするにはこうしたらいいのに”といった具体的な改善策をつぶやいたりするように心がけています。
ひとり言によって自分自身に課題を与えることで、どんどん思考が広がっていき、脳の活動量もアップします」