「電力会社の送電網に頼らず、電気を自給でまかなっていくのが『オフグリッド生活』。私がそれを始めて、もうすぐ4年です。電力自由化は、今のところ私には関係ありませんが、自分の使いたい電力を自由に選べる時代が来るのは歓迎すべきことだと思います」
コードが外され、ピクリとも動かない電力メーターを指さしながら笑うのは、都内に住む藤井智佳子さんだ。オフグリッド生活というと、地方の古民家などで不便を強いられながらの暮らし、という想像を抱いてしまう人も多いかもしれない。しかし、藤井さんがオフグリッドを実践しているのは、東京都内の公営住宅。3階建ての団地群の中で、最上階のベランダに設置されたソーラーパネルが、藤井さん宅の目印だ。
「パネルの発電量は、1日1キロワットくらいです。東京電力の電気代に換算すると、1カ月800〜1,000円ほどの料金を自給自足しています。冬場は太陽が低いので、朝7時くらいからパネルに直射日光があたり、発電した電気が余るくらいなんです」
ホームページ「ソーラー女子」を立ち上げ、各地のワークショップやセミナーに招待されるほどの藤井さん。電力を意識したきっかけは、’11年の東日本大震災による、福島第一原発の事故だった。
「原発の建屋が吹き飛ぶ映像を見て、東京で使う電気のために、あんな危険なものを地方に押し付けていたのかと申し訳ない気持ちになって……。電気の知識はゼロだったんですが、少しでも力になろうと思ったのが始まりでした」
そこでまず手をつけたのが、ソーラーパネルだ。
「知り合いの電気屋さんにお願いして、全部込みで14万円ほどで設置できました。当時はまだ計画停電もあったので、いざというときのためという意識でした」
ところが、実際にソーラーパネルを導入してみると、小さいパソコン程度なら十分に電力をまかなえることがわかった。これが、藤井さんの“節約魂”に火をつけた。掃除機をやめてほうきとちり取りをつかったり、夜は早く寝て照明を使わないようにしたり、節約に節約を重ねた結果、電気使用料は1,000円を切るまでに。そして’12年9月、冷蔵庫なしの生活を1年間続けたことで、藤井さんは東電との契約を解除。晴れてオフグリッド生活をスタートさせた。
その後も藤井さんはソーラーパネルを次々に増設。太陽エネルギーの素晴らしさを知ることで、新たな節約にもつながっているという。
「黒く塗ったガラスの筒に水を入れて、太陽に当てておくと、85度くらいのお湯になります。水ばかりではなく、筒にさつまいもを入れると“ソーラー蒸し芋”に、りんごを入れると甘味たっぷりの“ソーラー焼きりんご風”に早変わりします。気が付くと、ガス代も20%ほど安くなっていました」
電力会社を選ぶ時代から、さらに一歩先の電力自給自足へ。藤井さんにとって、オフグリッド生活は修業のようにつらいものではなく、「節約できて楽しめる」もののようだ。