あなたは気づいているだろうか?スマホやパソコンで検索サイトを利用すると、検索ワードと関連した広告がすぐさま画面に現れる頻度が、格段に増えていることを……。
「ウェブページ上に表示される広告をバナー広告と言います。広告を出す側としては、商品に興味のない人に、いくら広告を打っても効果がない。そこで重要性なのが、その人が何に関心を持ち、何という言葉を検索しているかという情報なんです」
こう語るのは、エブリセンスジャパン代表の北田正己さん。同社は、インターネットで集めた個人に関する情報などをたくさん持っている企業と、そのデータを欲しがっている企業間の取引所を運営している。
「検索サイトにログインして検索し、気になったページにアクセスした記録はすべて検索サイトの運営会社が保管しています。そのデータは企業外には持ち出されませんが、じつは広告代理店を介して、そのデータ元に広告配信する権利は売買されているんです」
北田さんが代表的なパターンとして教えてくれたのが、「婚活」を検索すると瞬時に検索サイトのバナー広告に「婚活サイト」が出てくる仕組み。
たとえば、あなたが「婚活」を検索して「婚活サイト」にアクセスしたとしよう。するとその情報は瞬時に、複数の広告代理店に通知される。そこでもっとも高い価格をつけた代理店が落札し、あらかじめ契約している広告主(この場合は婚活関係の企業)の広告が、あなたのスマホにバナー広告として表示されることになるわけだ。
「いわば検索ワードを対象とした“競り”のようなもの。検索サイトを相手に広告代理店各社が1秒間に数十件の入札を行っているといわれます。広告主にとっては、興味のある人に向けてとにかく広告を打ちたい一心なのですが、どうして自分が検索した内容が第三者に漏れているのだろうかと不安になる人も多いはず」(北田さん)
これは決して違法ではない。検索サイトに会員登録する際、あなた自身が利用約款を承諾しているのだが、そのなかに「データを第三者に提供してもよい」という項目がある。
「あの細かい文字を全部読んでいる人はいないし、また読んだとしても、それを承諾しなければ、サイトに会員登録できません。ただ承諾して利用している以上、履歴情報などを第三者に提供し、利用されることにOKしているのです」(北田さん)
これはネット通販でも、グルメサイトでも同じ。知らない間に「データ提供許諾」の約款に同意して利用している場合が多いのだ。
たとえばネット通販で買い物をすると、つぎにそのサイトを訪れると、おすすめ商品が表示される。これはあなたの前回の購入履歴から、サイトが検索して表示している。こうした自社内の履歴活用はユーザーにとっても利便性が高く、許容する人が多いはず。しかし、まったく別の検索サイトを開いた際、自分が購入した商品に関連した広告が表示されたら、一抹の薄気味悪さを感じる人もいるだろう。
「こうした企業間の個人情報売買が表面化したのは’13年のSuica騒動でした」
そう話すのは、明治大学ビジネス情報倫理研究所・客員研究員の守屋英一さん。
「JR東日本は氏名や連絡先などを伏せ、乗降履歴を企業に販売していました。相手企業にとって、どの年齢層の男女がいつ、どの駅にどれだけ集まっているか、マーケティングの資料としてはのどから手が出るほど欲しい内容です。しかしこのことが報じられると利用者から反発が大きく、中止せざるをえなくなった。企業はこの“事件”を契機に、データの売買に非常に神経質になってしまっています」(守屋さん)
その結果、どの企業もどんなデータをどこへ売り渡しているのか、固く口を閉ざし、個人のデータがどう扱われているか、私たちにはいっそうわからなくなっているのだ。
「スマホには、自分の位置を人工衛星と交信して知らせるGPS機能がついています。たとえば防災速報を無料で提供するサービスを行うサイトがあります。これはゲリラ豪雨の予報などを教えてくれて便利なのですが、当然利用するためにはスマホのGPS機能を使って自分の位置を知らせなくてはなりません。つまり便利さと引き換えに、逐次、自分がいまどこにいるのか、すべてデータとして、そのサイトに提供していることになるんです」(北田さん)